「イカサマピカデリー」サンプル



『……ど、どうしてそんなにその…幼馴染さん、のバイト先が気になるんだい?』

相手が他の人ならばどん引いてしまいそうになるくらいの過保護な内容に、レッドは思わず口を開いていた。
普段のグリーンから、こんな風に心配されているようなイメージが湧いてこない。
そこまで気にされているとは思わなかった。
だからごくごく当たり前の疑問を口にした。
だが、相手はそんな風に考えていなかったのだろうか。

『…何だい、その顔』

苦虫を噛み潰した、と表現するのが適当だろうか。
口を真一文字に結んだなんとも言えない表情で、グリーンは固まってしまった。
まるで見えない何かと交信しているような態度。レッドは更に首を傾げる。

「……それはまあ、心配だから、ですけど」
『それはキミを見ているとよく分かるよ。でもちょっと過保護すぎやしないかい?』
「そ…れは…っ」

あんたにはどうでもいいことじゃないですか。
少しお灸を据える気持ちで言うと、あからさまに突き放された。
確かに見ず知らずの人から余計なお節介を受けることを思うと申し訳ない気持ちになるが、こちらからすればどうでも良くはない。
だからもう少し、話をさせて貰おう。

『そんなに頼りない子なのかい』
「…そういうわけじゃ、ないですけど」

鈍い反応が続く。
例えばここで、レッドがグリーンと全くの赤の他人であったとしたら、はたまた話題の内容がレッド本人に対するものでなかったのなら。
レッドの中で答えはわりと簡単に導き出せていたのかもしれない。

「…俺が、気になるから」

ただ、それだけなんです。
何度か会話を交えた最後に、ぽつりと。
付け加えるように漏らしたその言葉は、何だろう。搾り出すように苦しい音を奏でていた。
ぴか様との掛け合いで、彼なりに自問自答するところがあったのだろうか。
やがてグリーンは一人でうん、と何度か頷いた後ゆっくりと顔を上げた。

「…ただ、俺が」

真面目な表情。真っ直ぐに、だけど少し悲しそうな色を宿す瞳に少しぎくりとした。
そんな幼馴染の表情。一緒に育ってきてこの方、見たことがあっただろうか。
そんなことを考えて、いたら。


「そいつのことが、好きだからです」


小さく、だがきっぱりと。
グリーンはそう言い切った。なるほど、確かに好きな人のことならば必死にもなるかもしれない。
常日頃から女の子をとっかえひっかえしているこいつから、直接好きな人がいるなんて聞くのはこれが初めてな気がするけれど。
なるほどねと頷きかけた傍らで。

(………あれ)

だけどとてつもない違和感に気が付く。
バイトを教えてくれない幼馴染。
それは間違いなく、自分のことだ。名前も聞いた。
だがその後に続いた話題が理解できない。
だってそのバイトを教えてくれない人というのは、グリーンが好きだという人物で。
その人も幼馴染で。レッドという名前の人で。

(………え)

グリーンは幼馴染、と言っただけで相手が女性だとは言っていない。
だけれども何の事情も知らない赤の他人が先ほどの過保護な言動を耳にしたのならば、流れで異性を思い浮かべやすい。
しかしグリーンに幼馴染と呼べる存在は多分、自分以外にはいない。少なくとも異性にはいない。
最初に聞き出す前の躊躇い。
引かれないといいけれど、の発言に隠された意味があったのだとしたら。
ということは、やっぱり?

『す、き…?』
「はい。…ちゃんと、そういう意味で」

ちゃんと。

(そういう、意味で?)

逃げの一手を考え始めたレッドにとどめの一撃。
上擦りまくった上に語尾が息となって抜けて行く。動いてもいないのに、流れる滝のような汗を感じながら、レッドは。
着ぐるみ越しに幼馴染らしき人物の、どこか切なそうな横顔を見つめたまま固まってしまった。





着ぐるみアルバイターとその幼馴染の話。

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