「変装紳士と笑いたい猫。」サンプル。


※なんちゃって女装グリーンと女子高生レッドさんのお話。






「全く、このぐらいの脅しで逃げるんなら最初から話しかけんなっつーの」

気分悪ぃ。
けっと吐き捨てるように呟くと同時、目の前に少女がいることを思い出す。
じっとこちらを見つめる瞳は、先ほどの去り際に見たそれと全く同じで。
それどころか、同じテラスに座っていた人たちの視線すら集めてしまっていることに気が付いた。

(やっべえ)

女性にしてはあまりにも勇ましい…いや、がさつな言動をしてしまった。これは自ら正体を明かしているようなものではないだろうか。
ただでさえ目の前の少女には、こちらの体格を間近で見られているというのに。

「あ、あー…えっと。乱暴な殿方ばかりでいやになってしまいますわねえ」

キャラ付けに失敗した。というかブレ過ぎだ。
だがテラスの他の客たちはそれで何となく落ち着いたのか、元通りの優雅な時間を再開する。平和な思考の人たちだらけで本当に良かった。

「…あの」

しかし目の前の少女はと言うとこちらの言動など全く意に介していないようで、遠慮なしに話しかけて来る。
先ほどまでの無表情とは打って変わって。少し戸惑いがちに。だけど真っ直ぐに。
ただ真っ直ぐにじっとこちらを見つめて来る少女。

「ええっと…さっきの、だよな。大丈夫か?」

平静を装って、なるべく普段通りの口調で話しかける。するとこくん、と頷きが返って来た。
そういえば、さっき野郎共に言っていたこいつの「用」って何なんだ。

(もしかして、あれか)

店先で触れた女性の体格に疑問を抱いた少女は、その理由を追求として後を追いかけて来た、とか。
そしていよいよ正体に気付いて、今ここで正体をばらそうとしているとか。
色んな悪い考えが脳裏を過ぎる。じわりと変な汗が浮かんでくるのを漠然と感じた。

「勝手に割り込んですみません、でした」
「…あ、ああ、いいよ。お陰で助かったし」

しかしこちらの予想とは裏腹に何故か謝罪をされてしまう。
その件に関してはむしろその逆だ。そう伝えるために心の底からそうお礼を言う。
心なしか少女の纏った空気が柔らかくなったような気がした。

(…気付かれたわけじゃ、ないのか?)

だとすれば他に用があるとはどういうことか。
服をつき返しに来たのだろうか。
そう思い「やっぱり服、いらなかった?」と問い掛けると、ものすごい勢いで首を横に振られる。
文句を言いに来たわけでもないらしい。

「お願いがあって、きました」

続けられたのは妙にかしこまった言葉。
自信がなさそうに見える表情なのに、背筋だけはやけに綺麗に伸びていて、それがどこかアンバランスで。
その様が何だか微笑ましい。
そう何となく思った、矢先に。



「僕をオンナに、してください」



ぎょ、っとした。





以下、ゆるーくどたばたとした展開が続きます。

[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ