「→night jack!!←」サンプル



わりい、と一言告げようとした、ところで。
振り返った瞬間、ぶつかった人物が見知った人であることに目を見開く。
いや、正確には「限りなく別人に近い知人」だったわけだが。

「…グリーン」

聞き慣れたその声の主は、考えるまでもない。
やっと見つけたなんて気持ちが浮かんでくる間もないほどに、グリーンの思考は停止したまま。
何とも間抜けな顔で相手を見つめ続けていたと思う。

「本当にいたんだ」

目の前にいる人物が誰なのか未だに脳の理解が追いつかない。
だってそこには先ほど見かけたよく知る幼馴染の姿、はまるでなく。

「な…なんでお前がそんな格好してるんだよ!」

気が付けば叫び出していた。
幼馴染で、グリーンにとっては最大のライバルでもある、レッド。
女ではあるが普段は男勝りというか、性別に無頓着な奴でその風貌から他人からは何かと男だと勘違いされている。
そんな彼女が今身に纏っているのはまさしくパーティドレスとかいうものだった。
上半身は白を基調にシンプル、だがふわりと広がるスカートの裾には可愛らしく深紅の刺繍が縁取られている。
腰周りは刺繍と同系統の深紅色のリボン紐で絞られて、それに添えられたお花のコサージュがいいアクセントとなっていた。
広がったスカートの裾は変に背伸びをしていない、年相応の雰囲気を醸し出しているし。
もう何と言うか。
本当に、先ほどまでの格好をしていた幼馴染はどこへ行ったのかと言うべきか。
…着替えに連行されていたのは知っていたけれど、こんなものが飛び出てくるなんて予想外だ。

「…パーティだからって、この船の船長さんが」

僕だって別にこんな格好したくなかったよ。
動揺のあまりつい不自然な質問を投げかけたこちらに対してレッド、らしき少女は少しむっとした表情を見せた。
見慣れぬ格好で見知った表情をするものだから更に違和感が増していく。
船長の指示に加えて、せっかくなんだから、と。
連れて行かれたメイク担当のお姉さんたちにきらきらとした表情で詰め寄られて断れなかった、と少し不機嫌そうに呟くレッド。
だがグリーンの心境はそれどころではない。

(あ、のオッサン…!)

確信した。あいつは絶対変態だ。
そうでなければ少女趣味とはかけ離れた存在であるレッドに、こんな格好をさせるわけがない。
あんな青白い顔をして苦しんでいた裏でこんなことをするなんて油断も隙もあったものじゃない。
会場入り前から彼が不機嫌な理由。
抱いていた勝手な勘違いはますます加速していく一方で。
それが目の前の幼馴染に向けているものとはまた別の対抗心から来ていることには気付かないまま。

「いっ、いい気になってんじゃねーぞ!あいつは絶対お前のこと騙してるからな!」

あのいけすかない変態、に貰った例のブツや飲んだジュースのお陰で頭も大分すっきりしており、喋りも元のペースに戻って来ている。
よく回る舌はグリーンにとって一つのバロメーターだ。
だがこちらの心情など露知らず、と言ったレッドは少し不服そうな表情を浮かべる。

「…船長さんはいい人だと思うけど」
「それが騙されてるって言うんだよバーカ。ちょっとちやほやされたからって調子に乗んな!」
「…別に調子に乗ってなんかいないよ」

微妙な間の後に逸らされた視線。
もっと何かを言ってやりたいと思うのに、そこで言葉が途切れてしまったのは何故か。
その逸らされた表情が少し不満げに見えたのは気のせいか。






こんな感じで緑がいっぱいいっぱいな、いつもの通りのノリになっております。

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