ストーリー

□かれぺSS(5月)
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■5/1:陸井家(side:深紅)■
午前10時、撮影クルーが集まり説明を受ける。
俺の台詞は一言。
監督に気に入られた俺たちは撮影準備に入る。
そして、若凪にも台詞が回ってきた。
クルーが動き回る中、カフェの窓側へ座る。
今は、俺と彼女の時間。
「楽しもうね」
笑顔を向ける彼女。
「…………」
俺は緊張していた。
「大丈夫?」
「ぁ……ああ……」
全然大丈夫ではない。
「深紅。ここ数日ね、寂しかった……でも、深紅の頑張ってるところを見たから、待ってる」
「若凪……」
「美味しいコーヒー淹れてくれるんでしょ?」
「約束だからな、一番最初は若凪だ」
「うん……」
彼女の手を取り、軽く口づける。
「ありがとな、緊張解れた」
笑顔を向ければ、頬を赤く染めた彼女が目に映る。
「深紅が変なことするから……私が緊張してきた……」
ぎこちなく、照れ笑いする彼女。
「俺を動かしたのは、若凪だぞ?」
悪いのは若凪だ――…
「そんな言い方……ずるい……」
そんな反応、台詞にまた煽られる。
「お待たせしました。撮影前にちょっといいかな?」
監督がにこやかに話し掛ける。
俺たちの先刻までのやり取りのことだった。
どうやらカメラが回っていたらしく、そのまま使いたいらしい。
そのための実名交渉。
客役から一変、美幸さん演じるオーナーの息子役に。
「気付いたら、撮影終わっちゃったね」
「その分、2人の時間が増えた」
お互い顔を見合わせ、微笑んだ。
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