ブリ×ブロ

□お菓子に釣られて…
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―今日は外の天気も良いし、
久しぶりに街の中心地まで足を伸ばしてみよう。

…なんて、少しでも浮足立っていたその時の俺なんて、
早い所くたばれば良いと思わずにはいられない出来事が…


*********


今日も東京CITYは、相変わらず平和な街だ。

悪事を働くモンスター一人…いや、一匹すらいない。


―とりあえず俺は、例の『あの女』にだけは見つからないように、なるべく周囲を気にしながら歩いてゆく。

…え、『あの女』って誰の事かって?

そりゃあ、悪人を自負する俺が恐れる奴なんて、
この世界にゃ数えるくらいしか存在しない。

中でも、
取り分け気をつけなきゃならねぇのは…


…ハイパーブロッサムこと、赤提ももこだ。
あいつと関わると、いつも決まってロクな事が起きない!

…そして、
何といってもこの街は正に、その恐れるべき人物が住んでいる街なのだ。

ふっと油断していたら、奴と鉢合わせする確率が極めて高い。冗談じゃねーぞ。


―暫く辺りを警戒しながらブラブラ歩いていると、
ふとこの街の掲示板が目に止まった。
相変わらず、
この街ではヤツら(パワパフZ)の活躍ぶりがデカデカと取り上げられている。

…だから当然、
ブロッサムと他二人の写真も掲載されていた。

…畜生、
本人じゃねーけど、何か嫌な予感がしてきてならない…

「…うん。
とりあえずアレだ。

…今日はもう、
さっさと帰ろう!」

―そうだ、また本人と直接ご対面した訳じゃないから、
今ここで大人しく引き返せばきっと大丈夫な―…

「あら、
誰かと思ったら…アンタだったのね!」

…―何てこった、
もう既に手遅れだったのか…

不意打ちだ。
踵を返した途端、俺の目の前に現れたのは紛れもなく『あの女』。

「…ぜ、絶望的」

どうして、
これ程までに俺はコイツと遭遇する事が多いんだ?

…やっぱアレか?
日頃から悪い事ばかりやってるのが原因なのか??そうなのか!?

―まぁ、そんな事より今大事なのは、コイツが本格的に絡んでくる前に此処から逃げる事だ!
奴が何かを喋り出すより早く、俺はアイツに背中を向けた。

「え、あ…ちょっと!ま、待ちなさいよぉ!!」

…そう言われるや否や、走り出そうとしたその矢先。

右手に変な違和感を感じたと気がついた時にはもう奴が、
逃げられぬように俺の腕をしっかりと掴んでいた。

「や…やられた…」

…嗚呼、コイツが普通の人間だったなら、こんな細っこい腕なんて簡単に振り払えたのに…

奴がパワパフZである以上、この力の差は歴然である。

…全く、こういう時ばっかりはつくづく自分が『情けない』と思う。


―こうなっては仕方がないので、もう無駄に足掻くのは止めておく。

「…あら?
今日は一段と諦めが良いじゃない?」

「うるせぇ、余計なお世話だっつーの!」
相変わらず、こいつの余裕ぶった態度が気に食わない。

「…そうそう!今日はアンタに頼みたい事があったのよねー」

ぶすっとした顔で睨んでやるも、
奴にはあまり効果がないようでいつも通り、頼んでもいないのに勝手に本題に入りやがる。

「実は明日、
東京CITYにある総合公園で『スケボー大会』があるらしいの!」

「…ふーん?」

…いきなり何を言い出すのかと思えば、何だよ。それがどうしたんだよ。

「それでねー。
その大会の優勝者には景品として、
『お菓子一年分』が貰えるんだけどぉー」

―『お菓子』という単語で、俺はコイツの科白が分かってしまった。

…間違いない。
奴は俺を…その大会に参加させるつもりなんだ…

…コイツの魂胆は理解出来たが、
生憎、こちとら素直に『はいじゃあ参加します』…という訳にはいかないんでね。

「…あっそ、
じゃあ頑張れば?」

分かってる癖して、わざと煮え切らない返事をする。

「ちょっとちょっと!何でそうなるのよ!?

どうせアンタ暇してるんでしょ?!
だったら、あたしの代わりに参加してくれたって良いじゃない!」

…失礼だな、
悪事を働くので忙しいこの俺を『暇人』扱いだなんて…

「暇、って…
おま…俺を何だと思ってるんだ…?」

「何、って…そりゃあ仮にもアンタは、あたしの『彼氏』っていう肩書きなんだし…

…可愛い彼女であるあたしの為に、
アンタはこの大会に参加する義務があると思うわ!」

「………………」

…呆れた。
というか、開いた口が塞がりそうにないぞこりゃあ…

まさか、俺に覚えがないのに大胆にも俺を『彼氏』だと断言するとは…

しかも、自分で自分を可愛いとか言うな。

「やっぱし…オマエとは付き合ってらんねーよ…」

所詮コイツは、
自分の都合で俺を動かそうとしやがる。

何と言おうが、俺はコイツの為になる事をするなんて願い下げだ。


―今度こそ帰ってやろうと思い、コイツが俺の手を離したのを良い事に俺は振り返らずに歩き始める。

「…でも、
あたしには他に…こんな事頼める人なんて、いないのに…」

―瞬間、確かにそうぽつりと呟かれた。

何だか…いつも馬鹿みたいにヘラヘラ笑ってばかりのアイツらしくない、
寂しそうな声色。

コイツが嫌いなら、そのまま放っておくのが一番良いと分かっているが…何故か、そうもいかない。

他の女がいくら泣こうが喚こうが、何とも思わないのに…

…どうしてもコイツの一挙一動を気にしている愚かな自分が、確かに存在する。

ちらっと横目でアイツの表情を盗み見てみると…
案の定、しゅんとしょぼくれた顔を浮かべて無言のままこちらをじっと見詰めていた。

「……………」

…はぁ、と小さな溜息を吐いてから、
俺はくるりと振り返る。


―言ったら駄目だ。


―言ったら駄目だ。


―でも、本当は…
言いたがってる、のか…?


―分からない。


「…しっ、
仕方ねーな…後で、参加しなかったのが原因で、お前に怨まれでもしたら厄介だし…

その…まぁ、
スケボーなら俺の得意分野だし…暇潰し程度になら、付き合ってやるよっ!」

…それを聞くや、
アイツの表情はみるみる晴れていく。

「本当!?やったぁ!!
これで景品の『お菓子一年分』は頂きねっ!!」

「…ったく、
お前って本当に調子良い奴だよな…」

…何て言いつつも実は思ってる程、
それが不快には感じていない。



 

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