KNDとオリジナル
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彼女がベイルの振りをして乗り込んだ飛行機は中国に無事到着。途中で目標であったベイルの弟のシューロは戦力から外した。
こいつとフランは邪魔者だけど、殺す必要もそこまでする程興味もないので、この二人は気を失わせるか、
監禁くらいで構わない。
ーアタシがこの手で始末を付けるのは、ベイル。アンタだけよ‥
‥もしかしたらもう、
あいつもマイナス世界の知り合いと結託してアタシの情報を幾らか手に入れてる頃かしら‥?まあ、
アタシの計画を知られた所で、プラス世界とマイナス世界を行き来出来る唯一の鏡はアタシの手中。
こちらに戻ってこれなければ何の手出しも出来ないでしょ?残念ね。
飛行機から降り、中国の空港に足を踏み入れた彼女を出迎える一人の少女。黒髪でお団子ヘアで如何にも中国っぽい出で立ちのこの子こそ、
彼女のもう一方の狙いであるフランである。勿論フランも、この少女がよもや自分の親友にマイナス世界の彼女が変装しているなんて知る由もない。
何食わぬ顔でこちらに手を振って歩み寄ってくるフランに、
彼女もそれらしく笑顔を見せて手を振り返す。
「やあ‥久しぶりだね、フラン」
口調もベイルらしく、棘のなく
女の子らしくない能天気な喋り方に合わせる。
「うんっ!本当に久しぶりだねっ!
まさかベイルが私と同じセクターに来てくれるなんて‥何だか夢みたい!嬉しいなぁ」
ー馬鹿ね、アタシがアンタの親友の振りしてるだけなのにすっかり騙されちゃって‥あんなに喜んで。
‥何て、我慢よ。
今はまだ正体がバレる訳には行かない。あいつの弟の後処理はあの子に任せてあるから、後はアタシがこいつをどうにかすれば主だった邪魔者は消えた事になるわ。
フランは彼女の手を握り、ブンブンと振っている。
「‥でも、急にどうしたの?
わざわざイギリスのセクターから抜けて中国のセクターに移動してくるなんて」
これはまだあくまで、普通に疑問に思って聞かれただけに過ぎない。
何しろベイルにはわざわざ元いたイギリスから遥々中国に移動してくる最もらしい動機が見当たらないからだ。
ただ単にフランに会いに来たければ、KNDの技術の集大成であるガラクタテクノロジーの内の飛行手段なり航路なりを使えばいつでも会いに行けるのに。いままでだって、
離れていてもどちらか暇な方が会いに行くので満足だった筈。
彼女はこの素朴な疑問にどう答えるべきか少しだけ考える。
こういう時は、あまり捻って最もらしい事を言うと逆に話が出来過ぎていて怪しまれる恐れが。
「まあ‥特に深い意味はないよ。
やっぱり、ボク的には親友が近くにいる方が落ち着くかなって思って」
「‥そっか、そうだよね‥」
フランは何を思ってか、苦笑しながら言葉を続けた。
「‥実はね、私も‥
ベイルが横に居ないと、何だか寂しいなぁーって‥思ってたの。
ほら、お互いKNDに入隊する前は
私とベイルの家がたまたまお隣同士だったでしょ?だから、会いたくなったらすぐに会えたけど‥
‥私がKNDに入隊する時に、
お母さんが居なくなっちゃって‥家も引き払わなきゃいけなくなって‥道場も畳んで‥それからすぐに、お父さんと以前暮らしてたこの中国に戻ってきて、今は二人で普通に暮らしてるけど‥やっぱり、
あの頃が一番‥楽しかったかな‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
‥こんな時、一体どんな表情をすれば良いのだろう?恐らく彼女なら、それが直ぐに分かっただろうに‥
何も言わず、ただフランの表情を伺うベイルを見てハッ!と我に返った彼女はあわあああああっ!と柄にも無く大声で焦り出した。
「あ‥ご、ごめんなさい!
来て早々重たい話なんかしちゃって‥」
いけないいけない、今のは聞かなかった事にでもしておいてっ。と苦笑しはにかみながら必死で誤魔化す。
「あ‥うん、
大丈夫だよ!気にする事ないよっ」
‥そうか、
この子もこの子なりに色々あったのね‥まあ、とは言えそれはアタシにとっては関係ない話だけど‥ね。
勿論、そうは言わない。
「あ‥そうそう!
すっかり忘れてた!」
急に話題を変えようと、フランが思い立ったようにポンと手を叩いた。
「折角こうして再開出来たんだし、
久しぶりに思い出の「あの場所」に行ってみない?」
「‥‥?(‥思い出の、場所‥?)」
「‥‥‥‥‥‥‥‥?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥??」
‥マズい、アタシとした事が‥
あいつ(ベイル)の外見と口調、思考は完璧に予習してきたつもりだったけれど‥あいつの記憶や思い出には一切触れなかったわ‥最悪‥!
『お前は昔から段取りは良くとも、
詰めが甘過ぎるからなぁ‥』
最悪ついでに、
以前彼女が誰かに言われた意表を突く一言を思い出してしまった。
(‥っ!五月蝿いのよっ!!
そ、そうよ!詰めが甘くても、その場の流れで上手く立ち回れればどうにでもなるわ!結果オーライよ!)
‥そうだ。ここは一先ず‥
「‥ん?どうかしたの?」
「あ、ううん‥ちょっとね‥」
咄嗟に彼女は俯き苦笑する。
とりあえず、ここを切り抜けて‥あわよくばそのままこちらのペースに持っていければ‥
「大丈夫‥?あんまり顔色良くなさそうだけど‥?」
具合でも悪いの?と心配そうに覗き込んでくるフランに、彼女はいや大した事じゃないよ‥と言う。
「ちょーっと、
疲れが出てきちゃったかなぁ‥何て‥」
勿論嘘。本当は普通に元気。
だがだからと言って思い出の場所を自力で当てられる訳もなく、かくなる上ははぐらかしてこの話題自体をうやむやにしてしまおうという寸法。
「‥そっか、そういえば今日は飛行機で来たんだっけ?人も一杯いるし流石に疲れちゃうよね!」
じゃあ、思い出の場所に行くのはまた今度にしよっか?とあちらから切り出してきた。待ってました!とばかりに彼女は「そうだね‥今日はゆっくり休む事にするよ」と返す。
「‥あ、じゃあ、
良かったらベイルの家まで送ってこうか?まだ来たばかりだから、一人じゃ心配だし‥
住所教えてくれれば私が案内してあげるよ?」
「‥本当?」
「うん!」
「‥じゃあ、
悪いけど‥お願いしようかな?」
「分かった!任せて☆」
-続く-