KNDとオリジナル

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「‥さてと」

部屋から出るや、いきなり話を振るのでシューロは「??」と頓狂な声を出した。

「実は‥さっき、
ハッカ君には先に話したんだが‥と、その話の前に先に、君は僕が最初に言った言葉を覚えているかい?」

「‥ん?えーと」

最初ーというと、もしや彼女達二人がこのセクターに到着する前の話か。

「‥ひょっとして、日本から一人来てー‥関連っすか‥?」

「流石はシューロ君、鋭いね。
その通り。今回来るのはたった一人のはずだった。にも関わらずスキャンパーには二人のKND隊員。おかしな話だろう?」

「‥まあ、普通に変っすね」

どうやらリーダーも、なんやかやで薄々妙だとは思っていたらしい。

「そこで、先程ハッカ君と話す前に、
日本のセクターに連絡を取って確認してみたんだが‥やはり今回、ここに来る予定だったのは美夏君だけと言っていたよ」

「‥じゃあ、ハッカ‥さんの方は‥?」

「‥それをさっき本人から聞いてみたんだよ。そうしたら、彼女は元々ロシアに在住しているそうだ。

そこのセクターに所属していて、ツリーハウスに向かっている最中に何かしらの事件に遭い、
命からがら逃げている時に今度は中国の遥か上空付近で、日本からこちらのセクターに向かって移動していたスキャンパーと衝突。

ハッカ君の方は、間に合わせで作った機体で飛行していたせいで乗り物は大破。
事故の責任を感じたスキャンパーの操縦士が、見兼ねて彼女を一緒に乗せてきたのがそもそもの原因らしいんだよ」

‥何というか、ご愁傷様、というか、
一体何の事件に巻き込まれていたのだろうか‥どちらにしろ、実に間の悪い話だ。同じ日に二度も危ない目に遭うなんて‥今後の事も見据え、
彼女が不幸体質でない事が心配される。

「‥そりゃあ、とんだ災難っすね‥」

だがそれ以前に‥その話が事実だとすると、つまりハッカは本来ならばセクターEに来る筈は全くなかった。という事になる。そうなるともしかしたら、彼女の元々所属するロシアのKNDメンバーが今まさに、
こつぜんと消えてしまったハッカを探しているかもしれないのだ。

「‥所で、ハッカ‥さんはどうするんすか‥?やっぱりロシアのセクターに連絡を取って、彼女がこちらにいる事だけでも伝えた方が良くないすか‥?」

「そうだね‥ただ、これは憶測だけど、
もし彼女が狙われた理由がKNDである事であった場合となると‥また事情が変わってくる。それは分かるね?」

裏を返せば「彼女が狙われた原因が不明な内は、残念ながらロシアに送り届けるのは危険である」という判断だろう。
だから最悪‥件の事態が解決するまでは、彼女をこちらで暫く預かる‥という対策を取る事もあり得る事も示唆している。

「‥‥」

リーダーは短い溜息を吐き、そして、
無言になるシューロに淡々と告げる。

「‥さて、
ここで突然だが本題に移ろう‥今回、君に来てもらったのは他でもない。ハッカ君も含めて、美夏君たちがここのセクターに慣れるまでの間、君には彼女たちと行動を共にしてもらい‥あわよくば、

ハッカ君が狙われた原因を探り出してもらいたい。それさえ分かれば、彼女を無事にロシアへ帰してあげられる。だろう?」

‥確かにそうなるが、それは即ち、
シューロ一人に彼女らに教える事の一切を自分に任せる。という、端から見れば実に無責任な丸投げ要求である。

‥冗談じゃねーや。

「‥それって、俺に頼めば速攻で拒否られるっていう可能性は‥考えなかったんすか?」

「勿論、無理なのは承知の上さ。
僕だって‥何も頭ごなしにこんな事を言っている訳ではないんだよ‥」

そう言うと、リーダーは目前にあった観葉植物のプランターの前に立って、
一枚だけ不自然に千切られた葉っぱを拾い元の場所に戻す。

「‥今から話す事は、あまり他言するような事じゃないからね?」

「‥何、すか‥?」

シューロが聞き返すと、リーダーは急に声のトーンと音量を下げて、ひそひそと語る。

「‥実は、美夏君なんだが‥日本のセクターのリーダーが言うには、彼女はとても人見知りが激しくて‥気性も荒くて好戦的らしいんだよ‥あの見た目でね。

今回‥こちらに彼女を寄越してくれたのも、どうやら本当の所は、彼女のせいでセクターの面々の大半が病院に送られたり、良くて自宅のベッドで絶対安静にさせられたから‥その、何というか‥厄介払い‥という事だったのかもねぇ‥」

ー厄介払い、か‥口にすると簡単な事だが、それは中々に重苦しい。要は「あなたはお荷物です」と人様から宣告されるのと道理だ。仕方ない。
何しろ‥この組織でも学校と同じくチームワークと協調性が重要なのだから。
たった一人でも隊列を大幅に乱す者がいようものなら、そいつはいずれ戦力外として外に追いやられる。

「出る杭は打たれる」とは、
良く言ったものだ。

「‥つまり、
俺にその危険極まりない奴と、おかしな事に巻き込まれてる奴の二人の面倒を押しつけると、そーいう腹っすか?」

捻くれ者で、嫌味な言い方をすれば、そういう事になるだろう。
シューロのこのポロっと出た一言に、
リーダーは「それは誤解だよ!」と声を少々荒げる。

「何も彼女が問題を起こした子だから、君に押し付けている訳では、決してないんだよ?僕はただね‥美夏君が少しでも落ち着ける環境を整えてあげようと考えた結果、彼女と一番歳の近い君に、暫くの間は彼女を宥めてあげるのが良いと思ったからさ」

「‥‥」

「‥どうだい?何度も言うようだけど、
こちらもその実は、無理を承知で頼んでいるからね‥どうしてもというのであれば、正直に言ってくれ。何とかお願い出来ないだろうか?」

勿論、これからずっとそうしろとまでは言わない。彼女がこのセクターの面々と上手く馴染めてきたら、ゆくゆくは彼女一人で頑張ってもらうつもりだからね。そうしたら君も、後は今まで通り自由にしてくれて構わない。

‥そう付け加えられ、シューロは少し考える。ぶっちゃけた話、こうやって自分より先輩な人に頼られるのは嫌いじゃない。むしろ、自分にも頼み事を寄越してくれるくらいには相手に信用されているんだなぁと、嬉しくもある。

「‥分かりました、その代わり、
俺の性分に合わないんで‥マジで短期間だけっすからね?」

根負けしたのだろうか‥
シューロはやれやれとばかりにリーダーの無茶振りを受け入れた。それを聞くや、リーダーはおお!ありがとうシューロ君!やはり君に頼んでみて正解だったよ!とまだ成果を出していない内からやたらと持ち上げてくる。

「‥じゃあ、早速だけど明日から、
よろしく頼むよ!彼女には後で僕の方から話を通しておくから!」

「‥うぃっす」

いつも通りの気怠げな返事を返し、
話が終わると同時に先程までいたパーティー会場と化した部屋に戻ろうと足を進める矢先、「ああ!それともう一つ!」とリーダーの声が背後から聞こえ、
くるりと振り返る。

「‥話が変わるけど、さっきは良く怒らずに我慢したね?君もやれば出来るじゃないか!これでまた一つ、成長したね」

「‥‥‥‥‥‥‥.??」

‥何の話をしているのか、皆目見当もつかない。偉いぞーと言わんばかりによしよしと頭を撫でてくるリーダーに狼狽しながら、されるがままに。

その狼狽えっぷりを見てか、リーダーがそうそう!と更に言葉を付けたした。

「‥言い忘れてたんだが、君‥
僕が彼女たちの居場所を教えてと頼んだ時に、通信機のスイッチを入れたまま今も放ったらかしにしているね?」

「‥え?」

そんな筈は‥とシューロがポケットから通信機を取り出して確認する。すると、何という事だろうか‥リーダーの言うように確かに通信機のスイッチがONになったままだったのだ。いや‥待てよ、
という事は、つまり‥まさか‥

「‥まさか、今までの俺のやり取りが、ずっとリーダーの耳に入ってきてたって、事っすよね‥?コレ‥」

嗚呼ー成る程。そうだとすると、
恐らくはリーダーがハッカと二人で話をしている間にシューロが美夏と話していた事がだだ漏れだったという‥何とも間の抜けた話だ。

「‥あー恥ずかしい‥」

もうやってらんねーよ‥とまるでいじけた子供のようにその場にしゃがみ込んで体育座り状態からうずくまる。

「まあまあ、そう気にするなって。
最初から何でもかんでも自分の思い描く通りの行動が出来る人なんて、そうそういるものじゃないさ。それに‥そうやって恥ずかしい経験を積んでおいた方が、人は大きく成長出来るからね。
そう考えれば寧ろこれは大事な成長過程の一つだよ」

‥何だか話がややこし過ぎるが、今のシューロにはその殆どが耳に入ってこない。ただ、リーダーなりにフォローを入れつつ慰めようとしてくれているのだけは伝わってくる。

「‥あざす‥」

うずくまったまま、
彼はリーダーにこう返した。





ー続くー

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