fairy tale

□03
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それから毎日ボーッとする生活。
クビだなんて言われたけど、出ていけとも言われない。

おかしい話だ。
私は雑用で、本来こき使われる存在が こうして自室でのんびりしていられるのだから。




前に、廊下で聞いた話によると、神威団長が私が働かないでもココで生活していけるように計らっているとか。




馬鹿馬鹿しい。
まさか、そんなのあり得ない。あの神威団長が、私なんかのためにしてくれるわけがない。
だいたい私は面倒くさい存在なんだから。






ため息をついた。
私しかいない静かな部屋に、隣のこえが響く。



団長室は隣だ。
それを羨んで、嫌がらせをしてくる女の子は多い。
でも今まではそんなの平気だった。
そう、今までは。





「神威団長ったらもー!」



楽しそうな声。
筒抜けだよ。


団長が笑うなんて、珍しい。
私といるときは、笑うことなんてなかったのに。
やっぱり、私だから。



どんどん暗い方へと考えが走り、気分も比例して落ちていく。





やっぱりこんな部屋には居たくない。どこか、一人になれる場所に。誰もいないところにいきたい。



私の足は自然と、あの最上階に向かった。

だが階段を登っていると、声がした。誰かいる。




不思議に思って、そっと階段の影から最上階を覗いてみると やはり誰がいる。2人組の男だ。

こんなところで何してんだろう。



「いいか、今日の晩だ」




耳をそば立てた。

今日の晩に何かあるんだろうか?




「第七師団長が出席する席に、これも一緒に出すんだ」



そう言って、もう一人の男に丸くて赤い何かを渡す。




「毒入りだ。見た目は林檎とそっくりだが、これはヘタの付け根がねじれてる」



「これで、夜兎の団長も片付けられるな」







心臓が凍りついた。
この男たち、スパイか何かだ。



それに団長を殺そうとしてる。
早く、早く知らせなきゃ。





私は慌ててその場を離れようと立ち上がった時、何かがカランと音を立ててしまった。



鍵だ。用具室の鍵が落ちてしまった。




「誰だ!」



警戒する男達の声が聞こえた途端、私は全速力で階段を駆け下り始めた。




「待てぇ!」




怒鳴り声と、追いかけてくる足音に怖くなって必死に走って逃げた。





なんとか逃げ込んだトイレで、男達が通り過ぎるまで息を潜めていると、無事に走り去っていく男。



なんとかまけたようだ。






今日の晩。もうすぐだ。


あの変な赤い実を料理に混ぜて団長を殺す気なんだ。



誰に伝えればいい?
雑務長は信じてくれないだろう。他の女の子達だって同じだ。




じゃぁ団長に直接?





どうしようか迷っていた時、不意に肩を掴まれ、壁に思い切り押し付けられた。




「ちょっとアンタ、クビになった奴じゃないのよ。こんなとこで何してるわけ?」




痛みに顔をしかめしゃがみ込んでいる私の腹を、女の子の足が容赦なく蹴り上げた。


見上げれば、5、6人の女の子達が嘲るような笑みを浮かべて私を取り囲んでいた。




「この役立たずが!」


「なんでクビになったのにいつまでもココにいるのよ!」


「目障りだわ」




モップで頭を押し付けられた。そして無理矢理 水で濡れた床に、顔をつけさせられる。


トイレに響く笑い声。
なんて楽しそうな声。



洗剤が私の体にぶちまけられた。
透明でヌルヌルした洗剤は吐き気がするようなレモンのきつい匂い。




「きゃぁ、汚い!」




笑いながら逃げていく女の子達の脚が見えた。




ぐしゃぐしゃになった私だけが残る。
こんなになった床、片付けなきゃ私がまた責められる。




痛む体を起こして、転がったモップを手に立ち上がった。


洗剤が目に染みた。
ギュッとつぶれば零れた雫。



また泣いてるの私。

なんて弱虫なんだろ。




大嫌い、こんな自分もこんなトコも。

もう、消えちゃいたいよ。





でも私にはやることがまだある。
それだけはやり遂げなくちゃ。







綺麗に掃除して、顔や体についた洗剤を洗い流し 水気をきってからトイレを出た。



すると予想もしていなかった団長が、立っていた。



トイレから出てきた私のずぶ濡れの酷い姿を見て、顔をしかめる団長。





そうだ、あの毒のことを言わなくちゃ。

そう思って口を開きかけた時。




「何してんの。目障りなんだけど」




冷たい言葉が私を貫いた。
開きかけた口が自然に閉じる。

言わなきゃいけないのに。
声が出ない。





押し殺したような笑い声がどこからかする。でも辺りを見回す気にはなれない。






泣くまいと歯を食いしばった。



でも、



目障り、だってさ。

やっぱりそうだよね。私みたいなの。




歩き去っていく団長を呼び止めることができなかった。

団長の足は、まっすぐ来客と食事をとる広間に向かっているのに。
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