shangrila short
□apres la pluie
1ページ/1ページ
apres la pluie
何も持たないで飛び出したから、雨をしのぐ物なんて無い。
だからと言って、雨宿りをする気も無い。人目につくとこには出る気がないの、どうか今は放っておいて欲しい。
言葉になんか、もううんざり。
誰にだって私の悲しみは取り除けないもの。だから助けて、なんて言えやしない。
そうだよ、誰にだってこの雨は止められない。いつまでも降り続ける。終わりなんて無い。
黒いペンキで塗り潰された様な空が、ホラ みるみるうちに街を覆ってく。誰にも止められない。
みんな逃げる様に何処かに姿を消した。
廃墟でもないのに寂しくなった街を、私が歩く。
冷たい雨は、凍える私の体を容赦なく殴った。
既にずぶ濡れなのに、雨はまだ私を濡らそうと必死なのか。それとも私の心も全てずぶ濡れにさせなきゃ気が済まないのか。
大嫌いだ、雨なんか。
私から温もりを奪って、私に冷たさと孤独だけを残してく。
お陰で、私はいつだって冷たさと孤独とは仲良しだ。
たどり着いた神社で、一人うずくまる。
抱えた膝が小刻みに震えているのが気に入らなくて、自虐的に自分のふくらはぎを抓った。
こんなに私が震えてるのは、寒いからだけじゃない。そんなの分かってるよ。
だから私はいつまでたっても臆病者なんだ。弱いんだ。
だから団長に、突き放されたんだ。
全部全部自業自得。私が悪い。
でもそれ以上に、止まない雨が憎かった。どうしてこうも無情なのかと。
全部嫌い、全部憎い。
光なんて要らない、あなたの居ない世界に光なんて無いもの。
雨に紛れて 頬を温かい何かが伝った時、不意に雨が止んだ。
おかしいな、誰にも雨は止められない筈なのに。
止んだせいでくっきりと私の頬についた涙の線。泣いていたのがバレバレだ。
滲んだ視界を、真っ白が埋めた。何かと思って見上げれば、予想もしない人物。
「何してんだヨ、こんなとこで」
息を切らして目の前に立つ団長。昨日、私を突き放した団長。
真っ白のチャイナ服には所々泥水が飛んでいて、汚い染みを作っている。
『弱虫は大嫌いだ、消えろ』
団長がそう言ったから、その通りにしただけだよ。私は悪くなんかないのに、
「なんでこんなとこで泣いてるの、」
答える前に、また涙が流れ始めて 気に入らないから乱暴に拭っていたら、急に温もりに包まれた。
抱き締められている、と気づいた時、私は嗚咽をもらして泣いていた。
「どれだけ心配したと思ってんの、こんなビショビショになって」
怒ってる風だったけれど、私の頭を撫でる手つきはあやす様に優しい。
「でも、よく一人で耐えてたね」
団長の服をぎゅっと握れば、ポンポンと私に背中を優しく叩く大きな手。まるで、もう大丈夫だと、安心していいのだとでも言うかの様に。
「ごめん、アンタは弱虫なんかじゃないよ。だから側に居ていいから、だから、」
泣かないで、
団長の温かい匂いに溺れながら聴こえた言葉になんとか頷いた。
泣きじゃくる私に傾けられた傘は、団長の優しさが痛いくらい甘く染み込んでいるんだろう。
じゃなければ、この雨も、私の涙も、止められるわけない。
ホラ、その証に 何時の間にか笑顔がともってるから。
止まない雨ははない。晴れない空はない。
いつか誰かが言った言葉を、もう一度信じたいと思った 雨上がり。
fine.
***
みんな、一人じゃないですよ。
だから泣かないでください諦めないでください被災者の方々!日本中世界中!
・apres la pluie=雨上がり
2011.03.23