melancholy short

□禁断の果実
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自室に戻り、ベッドに身を投げた。


仰向けになったまま 枕元に置いてある紙袋を手にとった。

ひっくり返せば、3つの丸い木の実が転がり出した。
昨日 立ち寄った裏町の店で買った。


怪しげな店員が言うには、

「一口食べれば恋の悩みが吹き飛ぶ 不思議な木の実」

だそうだ。


なんとも馬鹿げた話。誰が信じるかって。
なんて言いながらも、気付いたら握り締めたお金を店員に突き出していた私。


本当、重症だな。
こんなものにすがろうとするなんて。



3つのうち一つを手にとり、じっと眺めていたら、
ふと、隣の団長室から楽し気な笑い声がした。
耳をそばだてていると 女の声がしてきた。
醜い嫉妬の情が 心の奥底から這い上がってくる。





聞きたくない。こんなの嫌だ。



食べちゃえばいいんだ。
一か八か 食べてみて、本当に恋の悩みが消えるならそれでいいし、死んだとしても それでいい。




白雪姫みたいに毒入りかな、なんて思ったけど 生憎私はハッピーエンドのお姫様じゃないから。




思い切って一口かじってみたら、もの凄く苦かった。


吐き出しそうになったのを必死で堪えて飲み込むと、息が詰まりそうになった。
おまけに胸が焼け付くようにヒリヒリとする。
やっぱり毒入りだな と今にも飛びそうな意識の中で思った。




しばらくすると気分が楽になった。
ただ体中の力が抜けて、だらりとする。



急に眠たくなった私の耳には まだ隣の部屋の笑い声が響いていた。
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