melancholy short
□I know.
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「それじゃ、」
朝、いつもみたいに嘘の笑顔を向ける君。
「いってらっしゃい」
そんな嘘も今日で最後になっちゃうんだな、なんて思ったら急に悲しくなったけど、我慢。
「…どうかした?浮かない顔して」
「なんでもない、気をつけてね」
君はまだ何か言おうとしてたのかもしれない。でも、私は目の前で扉を閉めた。
きっと私、今すぐ泣きそうな顔してる。
よく頑張った。
今まで我慢して我慢して。
もうこれでようやく、吹っ切れる。もう我慢なんかしなくていいの。
ドア越しに遠ざかっていく足音。
その音も、あの笑顔も声も何もかも、思い出に焼き付けた。
全部思い出にして、持ってく。君を忘れられるわけないもの。
ごめんね、私物整理なんて嘘だよ。
私はね、今日ここを出てくから私物をまとめてたの。
でも全部は持ってけないでしょ。だからこうして、私が居なくなった後も捨てやすいようにまとめておけばいい。
私は必要最低限の荷物だけ持って、普段通りの格好で出れば怪しまれないはず。
午後一時を過ぎた頃、支度を済まして部屋を出た。
そうして、穏やかな足取りで歩いていた私の胸を、突然何かが貫く。
息が詰まって、目を見開いた。
胸から吹き出した赤に思考が固まる。
「よぉ、お前は神威んとこの女だったよなぁ?」
目の前には、見知らぬ天人。
「お前は知らねぇかもしれんが、俺達ぁ紅頭っつー組織さ」
「神威は、今日貴方達を…」
右腹をまた銃弾が突き抜けて、続きが言えなかった。
でも、何故そんなことを言おうとしていたのか自分に驚く。
本当は、神威の言葉を信じたかったからか。最後まで嘘だなんて思いたくなかったからか。
でも現実は違う。神威は今日、紅頭相手の任務になんかついてないんだから。
廊下にうつ伏せに倒れた私に、笑い声が降り注いだ。
「馬鹿かお前!神威は今頃他の女と遊んでら!知らずに過ごしてたなんて、哀れな奴だ!」
知ってたよ、全部。
それでも神威を好きでいたかっただけ。
「お目当てが留守じゃ、まずはお前から消すしかない。消えな、小娘」
突きつけられた銃口。
これじゃ、こっそり私が居なくなる計画が台無しじゃない、なんて頭のどこかで思った。
「何者だ貴様ら!な、紅頭か!?」
春雨の他の団員が気づいたみたい。
目をつぶれば遠くの方で銃弾戦の鈍い音が聴こえる。
あの中に、神威はいないんだよね。
こじ開けた瞼。視界は歪んで見えない。
「うそつき、」
最後に一言、つぶやいた。