icebound shangrila
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あの後、阿伏兎さんにさんざん髪型を馬鹿にされた。
好きであんな可哀想な髪型になったわけじゃないのに...
てーか阿伏兎さんだってボッサボサじゃんか。自然体で既にボッサボサのモッサモサじゃんか。
唯一の違いは髪にミートソースついてないことだけじゃんか。
「オイ小夜、汚いから風呂入れよ」
「!…い、今 私のな、名前を、ぅおおおおお!」
「何なんだよコイツまじで面倒臭ェ」
「名前!覚えて下さってたんですか!感激だわマジ、もー大好きですよ阿伏兎さん!」
そう叫んで阿伏兎さんに抱きついた。
「うわ、お前 何気に髪の毛のミートソース擦り付けてんだろ!オイやめろ馬鹿!」
「ねぇさっきからキモイ雑用。早く風呂入りなよ汚れるから俺の目が」
「酷っ!聞きましたか阿伏兎さん!神威さんは私のこと雑用って呼ぶんですよ。あ、なら私も神威さんのこと名前で呼んであげない!団長って呼びます!」
「あんまダメージないだろソレ。俺普段からそう呼んでるし。そんな勝ち誇った顔してんなよ小夜、悲しいから」
阿伏兎さんは心底嫌そうに私を引き剥がす。
渋々私は歩いて行き、私の区画側のシャワー室と思われる扉を開けた。
シャワー室は湿気ゼロでカピカピ状態だった。
シャンプーやトリートメント類はちゃんとあるが、随分使われてないようだ。
「コレちゃんとお湯出るんすか」
固く締まったシャワーのレバーに手をかけ、力任せにひねったが 何も出てこない。
「あ、そこ使われてなかったから水止められてるかもな。仕方ないから団長んトコの使えば?」
「嫌だヨ俺の汚れるじゃん。ミートソースで風呂場真っ赤だヨ どうせ真っ赤なら血で真っ赤な方がいい」
「誰もそんな事聞いてないし。じゃ使わせてくださいねー」
「嫌だってば」
「じゃー、団長が嫌だって言うのが嫌だ」
「って言う雑用が嫌だ」
「って言う団長が更に嫌だ」
「雑用死ね」
「えええ!何でいきなり?流れ的にコレはくだらないやり取りのエンドレスなんじゃないのォ!なんてこと!」
「無駄に驚くなヨ面倒臭いから」
「ってことで風呂借りますわ」
「あそ、もう少ししたら俺も行って風呂場真っ赤にさせるの手伝ってあげるヨ」
「ちょ、やめてそんな笑顔私に向けないで眩しい」
真っ黒なのに眩しい笑顔。
矛盾したものを器用に合体させる事ができる団長に、私は少しだが尊敬の念を覚えてしまった訳ないだろが。