icebound shangrila

□21
1ページ/3ページ



三日振りに帰還した船は、懐かしくて仕方がなかった訳がない。



だって、また地獄の様な毎日が始まるかと思うと…あぁ目の前が霞んで見えなくなる。

まぁそれはさておいてー、




「あー、買った買ったぁ!」




両手一杯に持った紙袋をどさどさ置いていると、



「ばーかっ、買ったんじゃなくて買ってもらったんだろぉが!」





スパーンという音を立てて、私の頭を阿伏兎さんが叩いた。
すると、今度はズバーンッという音を立てて、団長が阿伏兎さんを殴り飛ばす。


出ただろ。アレ、確実に内臓出ただろ。
へっへへー、朝っぱらからいたいけな少女を叩いたりするからバチが当たったんだよー。




「そんなに何買ったの?」



「!?、ちょっとー!乙女の下着を覗き見るつもりですかー!」




紙袋を覗きこもうとする団長から、慌てて紙袋を隠した。




「服とか化粧品ですよー!もう他の人が使ってたヤツ使うのなんて嫌ですもん」




ひょい、と紙袋からマニキュアを取り出して団長に見せる。


すると、ゴミでも見るような目つきで私からマニキュアを奪い取った。
食べちゃダメだぞ〜。

あ、いや、やっぱソレ食べてお腹壊しちゃえよ〜頼むからお願いします。




「女ってホントくだらないこと大好きだよネ」



そういって、耳元でシャカシャカとマニキュアを振っている。

使い方違うしソレ。
絶対何するものか分かってないだろ。




「いいんですー乙女だからー」



「鏡見て来なヨ、子ブタ」



「ねぇどうしてそんな眩しい笑顔で凄まじい事言えるんですか?どういう神経してるの?」



「最近タメ口増えてきたよね雑用のクセに死ね」





少し不機嫌そうな顔をすると、団長は持っていたマニキュアをポーイっと後ろへ投げ捨てた。




「きゃ、」



ごつっと鈍い音と短い悲鳴。
誰かと思って振り向けば、




「あああああ!あなた、ケチャップの!」



この前、私にケチャップ攻撃して逃げたあのぶりぶりメイドだ。
うわマジ、その格好やめた方がいいよ。




「あ、あの…」




あれ、なんかいつもと様子が違う?
私だけに話してるみたいだし、攻撃的な感じじゃないし?




「ちょっと、いいかな?えっと、小夜ちゃん、だっけ?」



「え、あ うん」




帰ってきて早々だったから、阿伏兎さんも団長もキョトンとした顔をしている。

(…なんか、阿伏兎さんにキョトンととかいう単語使うとキモくね?)




「オイ、先に行ってるぞ」



「あ、はい」



二人の背中を見送り、再び視線を目の前のメイドに戻した。




「あの、今までアナタに嫉妬して、たくさん嫌がらせしてきたこと、謝りたくて…」




俯き加減で、恥ずかしそうに言う。
あれ、もしかしてこれは仲直りしましょパターン?
やべぇ感動する。



「あ、いやっ、私も出会って初っ端から飛び蹴りしたりして、悪かったと思ってる…」



「あぁ、あれか。マジ許さない」



「………え?」



「あっ、いや、今のは違うの!ただの独り言よ、うふふ」




いや、なんか今ポロっと本音が出たよ真っ黒な本音!

ヤバイよこの子本当は仲直りする気ゼロだよ。マジ怖い、女ってマジ怖い。




「とにかく、仲直りをかねて、渡したいプレゼントがあるの。でも大っぴらに雑用係同士がそんなことしてるのバレたら、クビになっちゃうからさ…今晩の11時に最上階の南倉庫前に来てくれないかな?」



「え、あ うん。分かった」




どうしようプレゼントがケチャップ1年分とかだったらどうしよう。





それじゃ、といそいそと姿を消すメイド。
あ、名前聞けばよかったかな。





にしても、怪しいわ〜。


いやいや、でも人の親切を疑ってかかるなんて、心が醜い子がやることだし。


よし、今晩仲直りに行こう!





私は落ちていたマニキュアを拾い上げると、軽い足取りで部屋に向かって歩いていった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ