icebound shangrila

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「さっさと歩け!」




強面の男達に囲まれながら、連れてこられた地下街。


夜だってのに、どこから湧いてきたんだかってくらい人で溢れてる。



目がチカチカするようなライトで飾られた店の看板。

卑猥な店ばかりだ。




見渡せば、春雨の倉庫で一緒になった女の子達は絶望し切った様子でトボトボ歩いてる。



さっきから逃げ出すチャンスを窺ってたけど、こうも男達に囲まれていてはどうしようもない。



でも、こんな状況で弱音なんて吐いてたら掴めるチャンスも掴めなくなる。





「入れ!」




しばらく歩くと一軒の日本家屋に着き、中に入るよう促された。


入れば、化粧をして派手な着物を着込んだ年上の女の人が腕を組んで立っていた。




「まぁぞろぞろと貧乏くさい娘達が来たもんだねぇ」




え、なにこいつ初対面でそれはないでしょ。
てか、怖っ。




「遊女としての教育もろくに受けてない小娘なんか、使い道が限られてるんだけどね」




その場の空気が固まった。

何をさせられるのか、みんな見当もつかないんだ。




「最近は初々しさを求める客も増えてる。だから教育を受けてないアンタらはもってこいってわけよ」




突っ立ったままの私達の間を、縫うように歩き一人一人の顔をじっくり見ていく女の人。



ふと私の前で立ち止まる。




「アンタ、なんだいその格好は」




私だって好き好んでこんな雑用服着てるわけじゃねーしっ!
そんな目で私を見ないでぇ!




「汚いねぇ、とっと着替えてきな!ほら、アンタ達もだよ!」





そうしてまた私達は家の奥へと押し込まれ、タンスだらけの狭い部屋に入れられた。




「好きな着物を着な。20時には表に出ておいで」




女の人はそれだけ言うと、乱暴に扉を閉める。





「ほら、さっさと着物を着替えて」




今度は部屋内から、さっきの女の人よりもう少し高めの声。

これもまた遊女だろう。
私より1、2歳年上くらいかな。




着付けたことがないため、着物が自分で着れない、と正直にその人に申し出たところ、物凄く呆れられたけれど着るのを手伝ってくれた。


適当な淡いピンクの着物。うぐいす色の帯。

そして大層な髪飾りに、こってり化粧。



あああ、堕落していくってこんな感じなのかな、なんて自嘲じみてみたりして。





準備が整った私達は、俯き加減で表へと向かう。




「遅いよアンタ達!だらだら歩いてないで早く来な!」




この女の人は、相変わらず乱暴だし。ホント、環境は劣悪だ。





「今日からアンタ達は、新造女郎だよ。新造女郎ってのは見習い女郎のことさ」



「え、いきなり遊女として働くんですか!?」



「当たり前だろ!アンタここに何しに来たんだい?」



「あわばば、すみません」




怖いよお姉さん化粧がひび割れてるよ。




「ぐずぐず泣いてないで、早く客とりな!まぁ今日は初日だから、客に相手にされないと思うけどね」




今日中に逃げないと、確実にヤられる。キモイおっさんとかに絶対ヤられる。




「ちょっとアンタ、」



「え、はいぃ!?」




いきなり声をかけられて驚いた私はその場で背筋ピーン。




「名前は?」



「え、…小夜ですが…」



「小夜、アンタは外見だけはマシだから座敷に入りな」




座敷に入る?どういう意味だろ。
てか今のって褒められてる?


私がポカーンとしていると、女の人は、入れば分かるからと言って私を他の遊女に押し付けた。



さっきの着物着るのを手伝ってくれた人だ。


「こっちよ」




案内されて歩いていったのは、少し奥まったところにある店。


あんまり客もいないみたい。



その店に上がり、遊女についていくと、遊女は一つの小部屋の前で立ち止まった。




「ここがアンタの座敷だよ」



障子を開ければ、6畳ほどの狭い部屋に布団が一式。




なにこれ、旅館?

つまりこれ私の部屋ってこと?
ここでくつろいでればいいの?

いや、なんかまだ遊女生活の仕組みとかがちんぷんかんぷんだからよく分からん。




「客が来たら知らせるから。客を連れてくるのも私だから」



「えええ!ここに客が来るの!?」



「さっきからお前は何を言ってるんだい。座敷持ちっていうのは、自分の座敷をもってそこに客を迎え入れる遊女のことだよ」



「え、今日からいきなり客を相手にしなきゃいけないんですか?」





事態を飲み込んで来たら、どんどん怖くなってきた。


それじゃぁ、と一人残されたこの6畳の部屋で私は震えていた。



逃げようにも窓がない。

障子も引こうとしても、つっかえ棒でもされたのかびくともしない。




もう、客が来ないことを祈るしかなかった。




私は部屋の隅っこでうずくまり、膝を抱える。





身体が震えていた。

嫌な汗が背中を伝い、着物をじっとりと湿らせていく。




「たすけて…」




頬を伝った涙。
絞り出した声は掠れていた。




誰に助けを求めればいいか分からないこの状況の中、真っ先に頭に浮かんだのは団長の顔だった。
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