icebound shangrila
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大丈夫、私はやればできる子だから大丈夫。
そら、団長のご帰還だ!
土下座土下座!
なーんて、身体がカチコチに固まって動かない。ていうか、壁に背中をピッタリくっつけた不自然すぎる態勢でお出迎えしてしまった。
無言で部屋に帰ってきた団長は、そんな私を見てまたしかめ面。
ごめんなさい、なんかごめんなさい。
「ご、ご飯、ででできてますっ」
かろうじて、テーブル上のラップされた料理を指差す。
団長はふいっとそっちの方を見て、わずかに頷いた。
あああヤバイよ。会話ゼロだよ。気まず過ぎる。
もう謝る雰囲気ですらない。黙ってないと殺られそうな雰囲気だ。
べりっとラップを剥いで、ガツガツ食べ始めた団長。
空気は気まずいけれど、その華奢な背中を見ているだけで、なんだか身体の芯がじんわりと温かくなってくる。
次々とたいらげていく団長に、思わず目を細めた。
「…なんで、一緒に食べないの」
「えっ!?」
突然、箸を止めて団長が言う。びっくりして、言われた事を理解するのに時間がかかった。
「あ、いや、なんかお腹減っちゃって…先に食べちゃいました」
ちょっとションボリ答える。
すると団長は掛け時計を見上げて言う。
「まだこんな時間なのに?」
ギクリ。
確かに、今はまだ夕方6時前だ。
今まではだいたい7時に帰ってくる団長を待って一緒にご飯を食べていたけれど、今じゃ平常心を装って一緒に食事なんかできない。心臓破裂しちゃう。
ってなわけで、団長の帰還時刻情報を入手した後、死に物狂いで夕飯を先に済ませたのだ。
危うく、ジャガイモを喉に詰まらせるとこだった。
無言で俯いたままの私を見て、団長はため息をついた。
「もういい、わかった。そんなに嫌なら…」
「い、嫌なわけじゃないですよっ!」
思ったよりも大きな声が出てビックリした。団長を見れば、団長も目を大きく見開いてる。
「じゃあ何なのさ」
団長はすぐ不機嫌な顔に戻ってそっぽを向いた。
何なのさって、何が?
す、すすすす好kなんて口に出せるわけないでしょ恥ずかしい!
ほれ見ろ脳内でもちゃんと言えないんだぞそんな言葉!
「言いたくないならいいよ。とっとと帰り方でも探せば?」
帰り方。
そうだ、団長に言わなきゃいけないことがあった。
帰ることについて。
今まで怖くて言えなかった。
でも、団長の言葉を聞いて、突然避けられない現実と未来を突き付けられたような気がした。
『とっとと帰り方でも探せば?』
団長の言葉が頭の中でこだまする。
団長、その言葉の意味わかってないの?
私が帰るってことは、もう会えなくなっちゃうってことなんだよ?
それでもいいの?
私はこんなに嫌なのに。
と、そこで気がついた。
なに、今まで浮かれてたんだろ私。
馬鹿じゃないの。
団長は、嫌とか寂しいとか思ってないんだよ。ここ最近の態度で分かるでしょ?
それなのに、なんで私は浮かれて…
「何でもないです、おやすみなさい」
なんだか全身の力が抜けて、急に何もする気がなくなった。
まだ告白してもいないのに、振られた気分だ。
力なくそう言って団長に背を向けた。
団長の顔、見れないや。
「な、雑用っ」
なんか呼び止められたけど、現状がショックすぎて振り返る気にもなれない。
ただ横に首を振ってベッドに入る。
団長はそれ以上何も言わなかった。
また、嫌な思いさせちゃったかな。
そんなことを考えながら眠れもしないのに、ギュッと目を瞑った。