icebound shangrila
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「はい、」
変に高くて掠れた声が出てしまう。
なんだか団長が怖い。いつもの笑顔がなくなって、人形みたいな無表情になって。
『帰すわけないだろ?』
あの時の団長の言葉を思い出した。
そういえば、私が初めてここに来た時に言ってたっけ。
『この組織の事、まだ何も知らないでしょ?だからまだ大丈夫だよ』
確か、トリップ仕立てで家に帰りたいと言ったときに、そう言ってた。
それは、組織の内部情報を知ったら帰るのは許されないってこと。
「…駄目だって言ったら?」
「それでも私は帰らなきゃいけないんです」
すると、団長はまた考え込むような顔をする。
団長が帰るのを許してくれないのは分かってたけど。
でも砂時計の砂が落ち切るまで、もう時間がない。
団長が駄目って言っても、私が嫌だって言っても、時間を止められるわけじゃないんだ。
黙ってしまった団長を見た。団長は目を合わせないまま、どこか別の一点だけを見つめている。
「覚えてますか?私が初めてここに来た時のこと」
気づいたら、口が勝手に喋ってた。考えてもないのに、言葉がスラスラと出てくる。
まるで、閉じ込めてた思いが溢れ出したみたいに。
「あの時、団長のことあんまり好きじゃなかったんですけどね、こうやって過ごしてるうちに、一緒に居るのが楽しくて楽しくて」
そうだ。
気づいたら、楽しくて仕方なくなってた。もっと話したい、もっと知りたい、もっと声が聞きたい。
人間っていうのは、欲に限りなんてないみたいね。
「団長と、もっと一緒に居れたらどんなにいいかって、何度も思ったんですけど、」
ポタリ、と膝に落ちた温もり。
私、泣いてる。
言葉が詰まって出てこない。嗚咽を堪えようと歯を食いしばれば、小さく揺れる自分の肩。
「未来から来たって、前に言ったの、覚えてます?」
詰まりながら言えば、コクっと頷く団長。
団長は今、どんな顔してるんだろう。その表情を確認する余裕なんかない。
「もう、時間ないみたいなんです」
「…時間?」
「ここには限られた時間しか、居られないみたいなんです」
「じゃあ、その時間が終わったら意思とは関係なく、あんたの世界に帰るの?」
今度は私がコクっと頷く。
涙で顔がグチャグチャだ。見られたくない、恥ずかしいよ、こんな不細工顔。
「…本当に帰っちゃうの?」
聞いた事もないくらい、寂しそうな声に、胸がギュッと締め付けられる。
そんな声で、言わないで。涙止まらなくなっちゃうよ。
私は応えられないまま、団長の服の裾を握り締めた。
団長は何も言わない。
このまま終わりたくない。
その想いに押されるように、私は勇気を振り絞って言った。
「私、団長のことが好、」
でも、最後まで言うことは叶わなかった。突然目の前が真っ暗になり、力強く体を引かれた。
自分のじゃない温もりに包まれ、見えたのは団長の肩越しの室内。
「だんちょ、「信じられないよ」
抱きしめられたまま、団長の声を耳元で聞く。
未来から来たからそろそろ帰る、だなんて確かに信じられるわけないか。