icebound shangrila

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「おはよう」


起きてから茫然とした。だって、団長が。あの団長が。



「何その顔。いらないなら俺が飲む」



返事も待たずにマグカップに伸ばされた団長の手を、なんとか右手で押さえつけてマグカップを左手で守った。

そして、中身をまじまじと覗き込む。見た目も匂いも合格だけど、大丈夫なのかコレだって団長がだよ?あの団長がだよ?


「どうしたんですか、頭でもぶったの?「かち割ってあげようか、そのババロア脳みそごと」


フツーに心配してあげてんのに、前髪をグワシッて掴まれた。痛い痛い抜けるハゲる。

もう一度マグカップを覗き込んだ。見た目も匂いもココアだ。この包まれる様なあったかい甘い香りは間違いもなくココア。



「冷めるよバカ、鑑賞するものじゃないんだから。…飲まないなら俺が飲む」


さっきと同じようなことを言ってる団長を取り敢えず無視して、一口すすってみた。



「あつーーーーーーッ!あつ!あつ!あつい!」


「あたりまえじゃんバカなの?湯気たってるでしょ。……何その目。俺悪くないだろ絶対」



舌ヤケドしたけど、美味しいわコレ。寒い日はやっぱココアだわ。
ってか何で急にココアなんて作ってくれたんだろ?昨日飲んだくれて夜更かししてたから、てっきり今日もグータラ昼まで寝てると思ったのに。



「団長、頭でもぶったんですk「馬鹿にしてんの雑用?頭からかけるよココア」



小さなテーブルの前で二人でガタガタとマグカップの奪い合い的なものが始まる。



「私は団長の頭を心配してるんですってば!」


「言い方ってもんがあるだろ?やっぱ脳みそババロアだね」


「しっ、失礼な!だって、団長いつも頭変だからこれ以上変になったら困るし!」


「心配して言う台詞じゃないだろソレ。てか何?いつも頭変って。何のこと言ってんの?俺のアンテナのこと?そうだろ。それのことなんだろ」


「被害妄想が強いですよアンテナ!あっ、間違えた。団長!」


「やっぱそうじゃん」


ばっと左手からマグカップが奪われる。ココアが中で暴れるように揺れ、床に2、3滴零れた。その拍子にマグカップをもつ団長の手にもアッツアツのココアがかかったみたいざまぁみろ。



「うわ、あちっ」



ぶーんっ



「えっ…」








投げたよ投げやがったよこのアンテナ!ココア入ってるのに!

まるでスローモーションみたいに、空中でマグカップの中からココアが飛び出すのが見えた。
ヤバイよ。アレかぶったら即死だよ気持ち的に!よく意味わかんないけど!



でも、明らかに向こうに飛んでいったからかぶることはないだろう。ってか、どんだけぶん投げてんだよ団長。
あちゃーじゃないだろ。何でテヘっみたいな顔してんの。




ごん、ばしゃっ。





「「あっ、」」



団長と私の声がかぶった。
スローモーションに見えていたマグカップとココアの終着点と思われていた扉前の床に突如人が現れたからだ。

いや、床に現れたって言い方は変だよね。違うの違うの。扉を開けて入ってきたの。

そう。阿伏兎さんが。





「アアアアアアァアアアァアアアッ!?」




熱さに苦しむ阿伏兎さんを二人でただただ見ていた。
なんだろ、この気持ち。
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