icebound shangrila
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「さ、ここなら大丈夫でしょう」
連れて来られた会議室は、ここしばらく使われていないのか、空気が冷え切っている。
手前の椅子を引かれ、座るように促されたが無視して通り過ぎてやった。
「こうして一対一でお話するのは初めてですね、神威殿」
「で、ここまでして何を話さなきゃいけないの?」
男に背中を向け、窓の方にゆっくり歩きながら聞いた。後ろでため息と、椅子を元に戻すような引きずる音がした。
「近頃、この艦内で噂になっていることですよ」
「…噂?」
「えぇ。なんでも、組織に潜り込んでいる地球人の小娘がいるとかなんとか」
すぐにピンときた。嫌な予感が的中して、思わず男の方に振り向いた。
すると男はそれを見て、低い声で押し殺したような笑い声を立てる。
「そのご様子だと、心当たりがあるようで」
「……」
下手なことは喋れない。
俺は黙ったまま、男を睨み続けた。
「雑務係として住みついているようですが、その小娘の名は雇用名簿に入っていないとのことでこの件が発覚した訳なんですよ」
完全にアイツのことだ。
初めてアイツが来た時、阿伏兎が対処した筈なのに。阿伏兎の奴、手を抜いたみたいだな。
俺は再び窓の方に体を向けた。
「いくら地球人の小娘と言えど、正体も知れぬ者を置いたままにするわけには行かないのです。それが組織というものですからね」
「……」
「危険なことに、どうやらその小娘は神威殿、あなたの専属の雑務係になっているそうですよ」
まるで俺に探りでも入れているような話し方だ。そんなこと俺が一番分かってる。だって俺がアイツを置いているんだから。
「話に聞くと、部屋も団長室と相部屋だとか。身分も違う者を自室に招き入れるとは、普通では考えられないことだと思うのですが」
「俺の意思で決めたことに口出しするなよ」
「…ほう。では小娘とは一体どのようなお関係で?」
「関係なんてどうでもいいだろ「よくはありませんよ。場合によってはあなたも始末の対象です」
「始末?この俺を?笑わせないでよ」
「元老からの命令ですので」
「元老が?随分大袈裟な奴らだね」
アイツは無害だ。雑務させておくくらいどうだっていいじゃないか。どうしてそこまで。