icebound shangrila

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昼過ぎ、私のお腹が盛大に鳴った。時計を見れば、もう12時半を回っている。
いつもだったら、ご飯ご飯ご飯とやかましく喚くタイマーのような団長が居るおかげで、昼時だと知ることができる。けれど彼が居ない今は、すっかり時間という概念が頭の中から吹き飛んでいた。でも、私の腹のタイマーは黙っちゃいない。


「作るのめんどくさー」


部屋に私しか居ないのをいいことに、大きな声で独り言をこぼした。こんなの団長に聞かれたら、女らしさのカケラも無いとかなんとか言われて馬鹿にされそうだ。

ソファから重い腰をあげ、散らかったスリッパを適当につっかけた。そしてパタパタとキッチンへ向かい、ひょいっと背伸びをして上の戸棚を開けた。

そこには、山積みになったインスタント食品達。団長の好物という事もあり、勿論私が勝手に食べていいものではないが。


「一個くらいバレないでしょー」


私は山積みの中からカップ麺を一つ取り出した。はい、今日のご飯はコレに決定ー。

そもそも、自分一人しかいないと、まともに料理作る気にならないんだ。だって、どんなに手の混んだ料理作っても、誰とも共有できないし、美味しいとか凄いとか感想を言ってくれる人も居ない。
そんなんじゃ、ただ寂しいだけだ。

なんて、最もらしい理由をつけて一人でうんうん、と納得した。

ヤカンに火をかけ、ゆっくりとしたペースで準備を進めた。
いつもだったら、団長がいるおかげで食事の準備は慌ただしく、余裕なんかゼロだ。だから今という時間が少し奇跡に感じられる。

ヤカンが沸騰するのを待つ間に、タイマーを仕掛けようと冷蔵庫の方を振り返った。
だが、いつもは冷蔵庫の扉に磁石で張り付いている筈のタイマーの姿がない。
…あ、そうだ。団長にこの前壊されたキリだった。仕方ない、代わりに目覚まし時計でも持ってこよう。

そう思い、またパタパタとベッドサイドの目覚まし時計をとりに向かった。その途中、ふと窓際に視線がいった。
真っ黒な宇宙を背景に映える薄いピンクの砂。団長から貰ったあの砂時計だ。
これで時間測れるんじゃね?とか思って、冷たいガラス製のそれを手にとった。

そのままキッチンにUターンし、カップ麺の横にカタンと砂時計をひっくり返して置いた。でも上の砂は下に落ちる気配はない。
そこでやっと思い出した。そうだった。コレ使い物にならないんだった。


「穴でも詰まってんのかなー」


コンコンと指先で砂時計をつついてみたが、やっぱり砂は落ちない。それどころか、この振動にも全く動じていない。


「変なのー」


その時はそれくらいにしか思わず、私の興味は砂時計から消えた。こいつはただの置物だ。

仕方なくベッドサイドの目覚まし時計を取って来て、沸騰と共に甲高い悲鳴をあげ始めたヤカンの火を止めた。

お湯を注いでから、目覚まし時計の針を確認する。それにしてもお腹減ったなー。

右手で砂時計を取り上げ、まじまじと見てみる。穴に砂が詰まっているようには見えない。もしかして、砂の粒のサイズが大き過ぎて穴を通過できない、とか?
我ながら空っぽの脳ミソを使ってよく考えたと思う。自分で言っててちょっと悲しいけど。

砂時計をクルクルと回しながらぼーっと窓の外を見つめた。
気がつけば、団長まだかなーなんて口に出して言っている自分に驚いた。

はぁ、と溜息をついた頃、そろそろ三分経っただろうと目覚まし時計を覗き込んだ。


「よしっ!」


蓋をベリっとはがして箸でちょいちょいっとかき回した。
先に目覚まし時計をベッドサイドに片付けてこよう。

出来上がったカップ麺をキッチンに放って、右手に目覚まし時計、左手に砂時計を持ってパタパタ歩いた。
そしてベッドサイドに辿りつく前に、突然部屋の扉がドンドン、と荒っぽく叩かれた。
飛び上がって驚いた私は、その拍子にうっかり目覚まし時計を落としてしまった。

ガシャンッという音に下を向けば、時計の文字盤にヒビが入った目覚まし時計が転がっていた。

秒針は動いてるから壊れちゃいないみたいだけど、画面にヒビ入ってしまうと時刻が見づらい。

と、またドンドンッと扉が叩かれた。ハッとして扉に視線を移す。

今度は何だ。またあの変な男の人だったらどうしよう。
そんな不安が頭を過ったが、それは扉の向こうで叫ぶ女の人の声で消えた。


「お願いっ!助けて!」


切羽詰まったような女の人は
どうやら助けを求めているようだ。私の体は、まるで必然的な反射のように扉にまっすぐ駆け寄った。

鍵を開けて勢いよく扉を開ければ、髪の乱れた自分と同じくらいの歳の女の子が立っていた。


「どうしました?」


「どうか助けて!私達、攫われて来て、檻に閉じ込められちゃって!」


相当慌てているのか、まともに文章を話せていない。
とにかく落ち着いて貰おうと、部屋に入るよう促したが、女の子はブンブンと首を振り、そんな時間は無いと言った。


攫われてきた。その言葉からいつだかに出会った人身売買の商品とされる女の子達を思い出した。そうか。この女の子は売り飛ばすために攫われて、命からがら檻を抜け出してここまで来たのだ。


「他にも、まだ捕まってる女の子達がいるの!」


考え込んでいた私の服の袖を掴んで訴える女の子。
そうだ、こんなとこで考え込んでる暇はない。これは時間との勝負なんだから、一刻も早く行ってあげなくちゃ。


「そこに案内して!力になるから!」


女の子は大きく頷いたのを合図に、私達は部屋を出て走り出した。



to be continue…

まさかの神威出番なし。果たしてこれは夢と言えるのでしょうか。

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