icebound shangrila

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すっかり大学生活にも一人暮らしにも慣れた。


だが慣れた毎日は退屈で、年中私は五月病だった。

朝寝坊することが多い。理由は、壊れた目覚まし時計を買い換えずにいるから。朝、時間通り自然に目が覚められるような造りは残念ながらしていない。



あー仕方ない。学校もバイトも休みの今日は、目覚まし時計でも買いにいくか。
いい加減、このだらけきった生活におさらばしないと私の単位認定が危ぶまれる。



まだ眠たい頭でのそのそとベッドから這い出た私は、ジーンズとシャツに着替え身支度を済ませた。

薄いコートを引っ掛けて出た外は風が強く、気を緩めれば吹き飛ばされてしまいそうだった。まぁ、実際私の体重で飛ばされるわけがないんだが。


クシュン、と一つくしゃみをしてとぼとぼとマンションから出た。

近所にある大きな店屋に風から逃れるように入った。
軽快な音楽が流れる店内の活気を、何故だか鬱陶しく感じてしまう私。

いつからこんな捻くれた子になったんだ。


早足で家電売り場に行き、適当に一番安い目覚まし時計を購入した。

その後は、下の階で食品を買い、少し重たいビニール袋を下げながら店をあとにした。


帰りは何時もと違う道から帰ろう。唐突にそう思った。

マンション近いし、とりあえずマンションの方向に歩いて行けばたどり着くだろう、と簡単な気持ちで適当な道を歩いていく。


へぇ、こんなとこにこんな建物あるんだぁ、とか新しい美容院発見!とかキョロキョロしながら歩いていると、一軒古びた平屋の建物が目についた。


なんとなく近寄って行き、看板を見てみたが古すぎて掠れて見えない。


外見からして何かの店屋のようだ。
開きっぱなしの引き戸から頭を突っ込んで中を見てみる。

薄暗い店内は埃っぽく、独特なにおいがした。


「す、すみませーん…」


返事はない。そろり、と中に入ってみたが、人の気配もない。


中は沢山の棚があり、お皿やら壺やらよく分からない置物やらがギッシリと並べられていた。

成る程、ここは骨董屋か。



出来るだけ足音がしないように、と静かに店内を歩いて回る。

と、ふと見覚えのあるものを見つけ、私の目はそれに奪われた。



「似てる、すごい似てる」



手に取ったその重みも、感触も、そっくりそのままだ。



「砂時計…」


暗いせいでちゃんと確認できないが、確かにピンク色の砂に見える。


どうして、なんで。


こんがらがってきた私は、砂時計を手に取ったままその場に立ち尽くしてしまった。


と、突然背後で物音がして驚いた私が振り返る前に、肩に何者かの手がかかった。



「ヒィッ!?」


その瞬間、手に持っていた砂時計は一瞬目の高さ辺りまで宙を舞い、そのまま重力で引っ張れるように足元に叩きつけられた。



カシャン。



振り向いた先には、驚いたように目を見開くお爺さんがいた。

おそらく、この店の経営者だ。



「す、すみません!勝手に入って!あ、あわわわわ!あと、この砂時計!弁償、しまっ………あれ?」


同時にお爺さんの目が見開かれた。
お爺さんは慌ててまくしたてる私に驚いているのではなく、私の身体を見て驚いていたのだ。



「お、お前さん、身体が…」


「な、なななんじゃこりゃー!」



そう叫びながら、私は眩しい光に包まれていった。





to be continue…

次で最後だよ^^!
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