数十グラムの重み

□数十グラムの重み 6
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今まで、この戦場でブラスターが1人で背負ってきたものを、自分も背負うからと、考えていた。
そうしたら、ブラスターの負担も減るはずだから。
ジェネラルが、自分とデスペラードを戦場に呼んだのも、その為だと思っていた。
だが、そんなに甘くはなかったらしい。

ジェネラルと自分との間にある感覚のずれを、戦場に呼ばれて2ヶ月経った今、マイスターはようやく気付き始めていた。










給油施設の奪回作戦から、約1ヶ月が過ぎていた。
ジェネラルの部隊はキャンプを更に前線に移動させ、ひたすらに戦い続けていた。この1ヶ月、何度出撃したか記憶にない程に。
激しい戦闘を繰り返し、一息つく間も、もちろん負った怪我を治す間もなく次の出撃命令が下される。

「明日また出撃する。旧市街地に以前潰したカルテルの残党がいるらしい」
合流した他部隊を率いる中佐と話し合いを終えたジェネラルがテントに戻り、口を開いた。
テントの中には変わらずデスペラードとマイスター、そしてブラスターがいた。
給油施設の奪還作戦で背中に火傷を負ったデスペラードは、しばらく火傷の痛みに苦しんでいたが、今現在はほとんど完治していた。
だが、次から次へと途絶える事のない出撃の最中で傷が絶える事はなく、そしてそれはジェネラルやマイスターも同様だった。
しかもマイスターに至っては、給油施設で被弾した肩の傷すら未だに治っていなかった。


「ブラスター?」
「…寝てる。起こすなよ」
簡易ベッドの上で、あまり清潔とは言えないシーツにくるまり、ピクリとも動かないブラスターをジェネラルが呼べば、デスペラードに止められる。
自らの身体を抱き締めるように小さく丸くなり、ブラスターは眠っていた。
身体中傷だらけで、腕や頭に包帯が幾重にも巻かれ、所々僅かに血も滲み、その血がシーツを赤く染めている。
シーツの隙間から確認出来る腕や肩は以前より骨が浮き出ており、腕に埋めた顔は血色が悪く、息も細い。
誰がどう見ても、痛々しい程に弱っている姿だった。

「…起きたらブラスターに何か食わせた方がいい。いい加減まずいぞ」
少々よれた煙草に火を点け、デスペラードがジェネラルを見ることなく口を開く。
「食べさせても、吐いて終わりだ」
「なら精神安定剤の中に栄養剤でも混ぜろよ」
気づかないだろ、と続けるデスペラードに、ジェネラルは精神安定剤の入った袋を見てため息をついた。
確かに気づかないだろう、悪くないかも知れないな、と錠剤のシートを拾い上げる。
「明日の出撃、ブラスターを待機には出来ないの」
オートマチックの手入れをしながらマイスターがジェネラルを振り返る。だがジェネラルは厳しい表情で首を横に振った。
「無理だ。兵士の数はギリギリなんだ」
予想通りの答えに、マイスターはそれ以上食い下がる事はしなかった。
ブラスターを待機にしてしまえば、それだけ皇都軍の兵士の犠牲が増える。
どうしても、ブラスターを休ませるわけにはいかない状況だという事を、マイスターも理解し始めていた。
無言で立ち上がり、ブラスターの眠るベッドの傍らに移動する。
細い息に合わせて僅かに上下する胸元や肩を見て、僅かだが安心する。
知らないうちに、静かに、このままベッドの上でブラスターが死んでいってしまうのではないかと、たまに考えてしまうのだ。

「………」
ブラスターを、助けられるものだと思っていた。
負担を減らして、少しでも休ませてやれると。
だが実際、少しずつ減っていく兵士の数は出撃に追いつかず、ブラスターの負担は以前より大きくなっていた。
完全なオーバードラッグ状態に陥りながらも、それでもブラスターの戦力は必要なのだ。
そしてその埋め合わせは、自分だけでは到底不可能だった。



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