Short -2

□とあるデスペラードの記録2
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*月*日(飼育99日目)の記録より。





いつものように、ブラスターを連れて街を歩いていた時だった。
「ブラスター!」
横から大きくブラスターを呼ぶ声が飛んできた。かと思うと、顔色を変えて1人の男がこちらに走り寄ってきた。
銀髪で背の高い、傍らにマルバスの従者を飛ばしている天界人の男だった。

「マイスター」
誰だ、と問う前に、ブラスターが口を開く。
発言の許可を確認する事なくブラスターが自分から口を開く事は珍しい事だ。どうやら少なからず衝撃を受けているらしい。
ブラスターが言った、マイスター、という単語が恐らくこの男の名前なのだろう。
硬直したようにブラスターは動かず、呆然とその男──マイスターが走り寄って来るのを見ていた。
「ブラスター!ブラスターだよね!?あぁ良かった、ずっときみを探してたんだよ!」
硬直するブラスターを余所に、マイスターはブラスターに抱き着くような勢いで走り寄り、そのままブラスターの手首を両手で取った。
「死んじゃったかと思ってた…でもやっぱりアラド大陸に落ちてきてたんだ!本当に良かった…!」
心の底から嬉しそうに、安堵したようにブラスターに言葉を投げ掛けるマイスター。
一方、ブラスターは困惑したようにマイスターを見ていた。
マイスターの言葉から、恐らくマイスターは天界でブラスターの友人だった男なのだろう。
いつまでもはしゃいだようにブラスターに話しかけるマイスターだったが、何も言葉を発しないブラスターにやがて首を傾げた。
「どうしたの、ブラスター」
「…いや、…」
マイスターに掴まれた手をやんわりと払ったブラスターが、困惑した様子でこちらを振り返ってくる。
「ブラスター、知り合いか」
仕方がないので助け船を出せば、ブラスターは頷いた。
「…はい、天界で友人でした」
予想通りの答えだったが、面白くない、と思う。
ブラスターは俺が買った奴隷だ。奴隷に友人など必要ない。
だが、たった今その友人の手を戸惑いながらも振り払い、己を振り返ってきたブラスターに、少なからず満足感を得た。
ブラスターの中では、友人との再会を喜ぶ気持ちよりも、俺に対する配慮の気持ちが勝っているのだ。
「ブラスター?」
「ごめん、マイスター…」
再会の喜びを素直に感受しないブラスターに、マイスターが首を傾げる。
そして、ブラスターは今度ははっきりと、マイスターの片腕を振り払った。
それを見て、鼻で笑う。
「ブラスター、もう行くぞ」
「…はい」
ブラスターに一度だけ横目で視線を投げさっさと歩き出すと、ブラスターは頷いていつものように後をついてきた。
「えっ?ブラスター!?ちょっと待ってよ!?」
再会を喜ばず、果てはろくな会話もなくこの場から去ろうとするブラスターに、マイスターが慌てて食らいつく。
ブラスターの肩を掴み、ブラスターを強引に振り返らせた。
「せっかく会えたのにさ!どうしたの!?」
しつこい男だ、と思う。
だが、振り返ってマイスターを見ると、その表情からは心配や戸惑いとは違う、別の感情が微かに見え隠れしていた。
それを見て、なるほどな、と鼻で笑う。
同時に、再びブラスターは一言も発する事なく、やはりマイスターの腕を振り払った。
「っ、ブラスター…?」
ようやく会えた友人に再度腕を振り払われ、マイスターが狼狽える。
腕を振り払ったブラスターは、大した反応も見せずにいつもの位置─俺の後ろについて立った。
数秒間戸惑いの目をしていたマイスターだったが、やがて結論を出したのであろう、俺に詰め寄ってきた。
「お前っ、ブラスターに何したのさ!」
「……」
どうやらブラスターの変化は俺のせいだと判断したらしい。
勘がいいな、と思うと同時に、矛盾してはいるが勝手な事を言うな、とも思う。
「マイスター、」
黙ったままでいると、一歩後ろにいたブラスターが、マイスターと俺の間に入ってきた。
「…マイスターには、関係ない」
「っ…!?」
冷たい声色ではっきりと突き放したブラスターに、マイスターが固まる。
ブラスターが許可なく俺の前に立ったり発言をする事は、至極珍しい事だ。
ブラスターなりに考え俺を庇っているのか、腹を立てているのか、何にせよ悪い気分にはならない。
いい子だ。
「ブラスター…!?」
「…じゃあね、マイスター」
酷く動揺した様子のマイスターを尻目に、ブラスターは再び俺の一歩後ろの位置に立つ。
踵を返しさっさと歩き出せば、ブラスターがいつものように後をついて歩いてきた。

一人その場に取り残されたマイスターは、呆然とした様子で立ち止まったままで、追っては来なかった。




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