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□歪み愛
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半ば全員強制参加の年始の飲み会を、ランチャーは今年も遠目から控えめに参加した。
ウェポンマスターやバーサーカーが酔っ払って大騒ぎしてるのを、少し離れた場所から同期の3人と眺めながら酒を飲む。

「あのふたり付き合ってるんだってさ」
不意にスピッドファイアがそう言って、言われた二人に視線だけを向ける。
――へぇ、気づかなかった。そうなんだ。
たったそれだけ。特別なにも思わなかった。
レンジャーもメカニックも聞き流していた。興味がないのだろう。
「喧嘩ちゃんお前に気があるよ。あの子傷だらけだけど悪くない気がする。ちょっと羨ましー!」
スピッドファイアに言われ、ランチャーは顔をしかめる。
なんだそれ。確かに彼女とはよくクエストを一緒にこなしたりするけど、別にそんな事はない。
ランチャーが何気なく喧嘩屋の方を見れば、同じく自分の方を見た喧嘩屋と目が合った。
軽く手を振れば、喧嘩屋は少し顔を赤くして、控えめに手を振り返してくれた。
とりあえず勘違いだろう、仲は悪くないつもりだけど。
「ネクロさんはちょっと近寄りがたいよね、でもランお前ぜってー気に入られてるよ、気をつけろー」
考えていると、今度は集まりの隅にいる、少し異色のオーラを放つネクロマンサーを見て、スピッドファイアにそう笑われた。何のことだよ。
そもそもネクロマンサーとは少し前に一度話し込んだくらいだった。それから何度か一緒に狩りに誘われたり、たまたま出くわしたことはあったが、別に気に入られてるとか、そんな事を思った事はなかった。
ただ、会うたびやたら強い目をされるというか、何か言いたい事でもあるのかと、思わせる雰囲気はあった。
残念ながら、それが何かなんて自分には分からなかったが。
言いたいことがあったら、そのうち言ってくるよな、なんて。軽く考えてた。……まずかった、かも。

いくらか時間がたって、スピッドファイアとレンジャーは酔っ払って2人で話し込み、メカニックはつまらなさそうにジュースの入ったグラスを弄んでいた。そんな時、不意に声をかけられた。
「私が作ったお酒、呑みません…?」
ネクロマンサーだ。
すぐ隣まで来ていたのに気づかなかった。一瞬、焦った。
「……、ありがとう」
差し出されたグラスを受け取る。中身はカクテルだろう、綺麗なオレンジ色だった。
ちょうど呑んでいたグラスが空になったところだったから、気を遣ってくれたのかも、と思う。
差し出された酒を迷いなく呑めば、酒らしく少しの苦みを感じた。
「美味しいね、これ」
素直に思った事を口にした。甘ったるいお酒は好きじゃない。
その言葉を聞いてネクロマンサーは口元だけニヒルに笑った。正直、何考えてるのか分からない。

「…………」
少しぼんやりする。頭がふわふわして、視界が急に狭くなってきたのを感じた。
一気に呑んだからか、と考えるも、全部呑んだわけではない。
あまり酔わないようにマイペースに呑んでいたのに。急になんだろう、視界がぼやける。
いや、視界だけじゃなく、頭の中も。
「ごめん、ちょっと酔ったかも。…外歩いてくる」
それだけ言って立ち上がった。途端に視界がぼやけてゆっくりと傾く。…あぁ、酔ってるかも。

集まりを抜けて外に出る。少し肌寒い。
「…少し休んだら」
ふと振り返るとネクロマンサーがいた。相変わらず気配が薄いな、とぼんやりした頭で思った。
「もう少ししたら、もっとぼんやりしてくると思うの。…あのカクテル、美味しかったんでしょ?」
意味深な事を言われた。
気づくと彼女がすぐ後ろにいて、肩に手を置かれた。
なんだか良くない状況な気がするけど、鈍くなった思考回路がついてこない。
あのカクテルが何?
あのカクテルってそもそも、どのカクテル?…ていうか俺は今日、カクテルなんて呑んだ記憶ない。
あぁ、さっきもらったあれか。やっぱりあれカクテルだよね、あれ。
……で、あのカクテルが何だって?
酔ったとき特有の鈍い思考回路。物事をうまく整理出来なくて、よく分からない。
「…カクテルが、なに……?」
重い口を開いて出た言葉と共に、視界が更に霞んだ。
まずいかも。そう感じたと同と同時に視界が暗転。体のすべての感覚がぼんやりし過ぎて、自分が今倒れたのか、まだ立っているのかすら分からなくなった。


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