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□それはきっと、
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その日はレンジャーとメカニックが、2人でクエストを消化するのだと言って、家を空けていた。


「ランも呑めよ、ほら」
「俺はいいって」
テーブルに並べられたいくつもの酒瓶。
機嫌よくランチャーのグラスにブランデーを注ごうとするスピッドファイアに、ランチャーは自分のグラスを遠ざける。
この家にある酒は、主に酒を呑んでいるレンジャーとスピッドファイアの趣向で、ほとんどがブランデーかウイスキーだ。
ブランデーかウイスキー以外にあるのは、せいぜいリキュール。

「スピ、おれ風呂入れてくるわ」
「んー」
こんな酔っ払いにいつまでも付き合っていられない。早めに風呂に入って自室で重火器のメンテナンスでもしよう。
浴室に向かい、お湯を入れる。
ふと目に入ったのは脱衣所の隅にあった浴槽の蓋。
掃除の時に邪魔で、脱衣所の隅に追いやってから、一度も使ってなかった事を思い出す。
お湯が冷めても嫌だし、久しぶりに使うか、とランチャーは蓋を持ち上げた。
ガラガラと少々煩い音を立てて浴槽に蓋をしたところで、浴室の外から慌ただしい足音が近づいてきた。
「ラン!どーしたっ!?大丈夫か?!」
「は…?」
ランチャーが浴室から出ようとしたと同時に、血相を変えたスピッドファイアが浴室に飛び込んで来た。
スピッドファイアはランチャーを確認すると、安心したように大袈裟に息を吐いた。
「なんだよスピ。どうしたんだよ」
意味のわからないスピッドファイアの行動に、ランチャーはきょとんとするしかなかった。
スピッドファイアはため息をつく。
「だってなんかすごい音したから…俺てっきりお前が風呂場で倒れたのかと…」
「はぁ?」
すごい音って何だよ、と、言いかけたところで、ランチャーは先ほど被せた浴槽の蓋を思い出した。
「あぁ、まさか蓋した音?…久しぶりに使おうと思って」
「…びっくりさせんなよバカ」
勝手にびっくりしたのはお前だろう、と、言いかけて再び飲み込む。
同居人が風呂を入れに立ったところで風呂場から大きな音がして、倒れたのかと思って慌てて駆け付けた──、考えてみれば悪い気分にはならない話だ。

むしろ自分が倒れたのかと血相を変えて飛び込んで来たスピッドファイアの存在が、不本意ながら少しありがたいと感じた。


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