Short

□Chocolate Day
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前日、ダンジョン制圧にやたら時間がかかり、4人が帰宅したのは深夜0時過ぎだった。


昼過ぎにようやく全員起き、今日はゆっくりしようという時に、家のチャイムが鳴った。
俺が出るよ、と、ランチャーが立って数分後、ランチャーが可愛らしいバスケットを持って戻って来た。
「喧嘩ちゃんだった。手作りクッキー貰っちゃった。みんなで食べようよ」
蓋のない楕円形のバスケットの中にはたくさんのクッキーが入っていた。
「ぁ…今日バレンタインか…」
スピッドファイアが気づき、呟くように言った。

カレンダーを見れば、今日は2月14日。
前日ダンジョン制圧に必死だった4人は、今日がバレンタインデーだという事をすっかり忘れていた。
「あ、これ美味しい。コーヒー煎れて食べようよ」
呑気にクッキーを1枚食べ、3人にもクッキーを勧めるランチャーに、スピッドファイアがあからさまにため息をついた。
「お前えげつねぇな。明らかお前専用クッキーだろそれ」
喧嘩屋がランチャーに片思いをしているのは有名な話だ。
普段は男勝りな喧嘩屋は、ランチャーといる時だけ、顔を少し赤くして大人しくなる。周りが気づかないはずがない程の、分かりやすい反応だった。
もっとも、喧嘩屋は気づいておらず、ランチャーに至っては喧嘩屋の想いにすら気づいていない。
とんでもねぇ男だよあいつは、と、よくスピッドファイアが言っていた。

「このクッキーは俺たち4人にって言ってくれたんだよ」
クッキー入りのバスケットをテーブルに置いて、ランチャーはコーヒー用のお湯を沸かし始めた。
「どーだか。お前にあげるための口実だろ」
「違うって。だってコッチが俺専用のだし」
「は?」
言いながら、ランチャーが可愛らしい小さな紙袋をテーブルに置いた。
中には丁寧にラッピングされた生チョコとトリュフ。若干いびつなそれは、もちろん手作りであるという事の証だった。

「…………」
レンジャーは黙ったまま表情だけで呆れ、メカニックは興味津々に紙袋を覗き込み、スピッドファイアは再びため息をついた。
「ラン、お前さぁ、まじえげつねぇ…」
「さっきから何だよ、えげつないって」
「告白は?告白。されたわけ?」
「ん、何の告白?」
「…なんでもねーよ」
諦めたらしいスピッドファイアは、会話を切ってソファにもたれ掛かった。
スピッドファイアの横でクッキーを1枚頬張ったメカニックが、美味しい、と、感想を零してから続ける。
「ラン、喧嘩ちゃんと付き合っちゃえばいいのに」
メカニックの言葉にランチャーがきょとんとする。
「えっ…何で?」
「…何で?はないでしょ」
「いや、だって友達だし」
「ただの友達?」
「そうだよ、もちろん」
「でもよく2人だけで出掛けたりするじゃん」
「えっ、おかしい事?」
ダメだこれは、と、メカニックも諦めてため息をついた。
どうやったらここまで鈍感な男が出来上がるのか。

他人の気持ちにも、自分の気持ちにもランチャーは鈍感だ。
いつも相手から告白され、そこで初めて相手の気持ちに気づいてパニックになる──毎回それだった。
惜しい男だと思う。



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