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□イントリーグ 2
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眠りの邪魔をされるのは嫌いだ。
人の睡眠には2種類あるらしい。深い眠りと、浅い眠り。
どちらの眠りにせよ、中断させられるのは嫌だ。
これは全人類共通だろう。




やや乱暴に扉が開閉する音が聞こえ、続けてガタリと派手な接触音が耳に届いた。
僅かな金属音も響き、廊下を歩く足音から、同居人が帰って来たのだと、ぼんやりする頭で悟った。
そして同居人のそいつ─ブラスターは、何を思ったのか真っ直ぐリビングに来て、灯りをつけた。
「…っ、…」
リビングで酒を呑み、そのままソファで眠っていたデスペラードに、容赦ない光が降り注ぐ。
「……、ただいま」
「…いま何時だと思ってんだ」
「…3時過ぎ」
こちらの姿を確認して小さな声で言われた挨拶に、デスペラードは少し腹が立った。
何がただいま、だ。ちょっといろいろおかしいだろう。自分の部屋に行けよ、リビングに何の用だ。
「…ごめん、部屋にいるかと思って」
同居人はそう言って冷蔵庫を開け、ペットボトルのままミネラルウォーターを飲む。
何口か飲んだと思ったら、そのままシンクでミネラルウォーターを右腕に流し始めた。
何してんだ、と思うと同時に、僅かに血の匂いが立ち込めている事に気付いた。
「……怪我したのか」
「…少し」
上半身だけ起こして聞けば、予想通りの答えが返ってきた。
起き上がって歩み寄れば、薄い血の色になったシンクが視界に入った。
「…油断した。まじダサい」
呟いたその言葉に右腕を見れば、鋭利な刃物で切りつけられたような傷口だった。止血を施し、時間も経っているのか血は幾らか固まっていた。
「ブラスター、」
名前を呼んで更に近付けば、ブラスターの眉間に皺が寄る。
「…デスペラード、近い」
距離が近い、と言われ、一歩下がればブラスターは満足したようだった。案外単純な男だと思う。
タオルで血と水を拭き取り、ブラスターは袖を伸ばして傷口を隠す。
「おい、ちゃんと消毒しろよ」
「…後でする」
「嘘つけ」
絶対しないだろ、このずぼら。バイ菌ナメんなよ。
「っ痛…」
強引に腕を引っ張り、半ば突き飛ばすようソファに座らせた。
「痛い、一応怪我人なんだけど」
うるせぇ。優しくエスコートでもされたかったのか。
「手当てしてやる」
短く言って自分の応急セットを取り出せば、ブラスターは目を丸くした。
「…まじで言ってんの」
「まじだ。腕出せ」
「きもい」
まさかの暴言きたよ。手当てしてやるっつってんのに何て男だ。
だが暴言を吐いた割には、ブラスターは大人しく右腕の袖を捲り上げ、傷口を晒してきた。
よく見たらまだ血も幾らかこびりついたままだ。いつか破傷風で死ぬぞこの男。
「痛い痛い」
「腕を動かすな、大人らしく大人しくしろ」
消毒液を傷口に落とせば、痛いと悶える姿に呆れる。子供か。
痛いくせに、その傷を大した処置もしないで放置しようとしたのはどこのどいつだ。
小さく舌打ちを零して手当てを続ければ、デスペラードの機嫌を損ねたとでも思ったのかブラスターが黙り込む。
ブラスターが黙った事に気を良くしたデスペラードは、手際よくブラスターの腕に包帯を巻き、固定した。
「ほれ、出来た」
「…ありがとう」
「うわ、礼とか気持ちわる」
腕を解放すれば素直に礼を言われ、今度はデスペラードから思わず暴言が出た。
そして、拗ねたような表情で腕を引っ込めたブラスターの姿に笑いが込み上げてくる。…子供か。
「今度酒でも奢れ」
冗談ぽく言えば、ブラスターが眉を寄せた。
「見返り高くない?アンフェアだ」
「うるせぇ何がアンフェアだ。睡眠妨害までしたくせに」
「リビングで寝てる方が悪い」
この野郎。酒場でブラスターのツケで1番高いボトルをキープしてやる。

右腕を擦りながらこちらを見てくる男に、覚悟しろ、とデスペラードは心の中で呟いた。








─イントリーグ 2─


やはりオチなし(´oωo)
『アンフェア』は、くろの口癖ですo




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