手を伸ばせば触れ合える距離に常にお前がいて、あの時も、追い掛ければ追いつける距離だった。
何を迷ったのか、何を考えていたのか、追い掛ける事をしなかった。
きっと振り返って、追い掛けてよ、なんて文句を言ってくれるはずだと、思っていたのか。
きっと向こうから、またこの腕の中に戻って来てくれるはずだと。
『冗談だよ、試してみただけだよ、好きだよ』
そんな言葉が紡がれるはずだと。
何を根拠に、お前は俺から離れないと思っていたのか。
お前には、俺じゃなきゃ駄目だと。
世界でただひとり、俺だけがお前を許してやれると。
世界でただひとり、なんて、馬鹿馬鹿しい。
世界中に、俺以外に男は何人いるのか。
俺だけがお前を、なんて、とんでもなく自意識過剰で、何も分かっていない幼い考えだ。
俺の腕をすり抜けたお前は、どこに向かうのか。
誰か他の男の腕の中か。
お前の事だ、もう二度と誰かの腕の中に収まろうとしないんじゃないか。
ひとりで、ただひとりで生きていくんじゃないか。
お前のその、ひとりを、止めたのは俺なのに。
無理矢理にお前を腕の中に抱き込んだのは、俺なのに。
今なら、お前に一度も言った事がなかった言葉を言ってやれるのに。
もう遅い。
遅すぎた。
それでも言わせて欲しい。
愛している。
それでも愛している、と。
ただ今は、お前に逢いたい。
―愛し、―
『俺』と『お前』が誰なのかは一応考えてありますが、...なんだこれo苦笑