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□Catch a Cold
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「うぅ〜…、レン、みずぅ〜…」
「………」
ガラガラに掠れた声で水を要求され、レンジャーは腰掛けていた1人用のソファから立ち上がった。
1階の冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを手に、部屋へと戻る。
ベッドには、布団にくるまってゼェゼェと荒い息をするスピッドファイアがいた。

「スピ、」
「…蓋開けて」
「……ん、ほら」
要求通りに蓋を開けてやり、手渡す。
「喉痛いぃ……」
痛い痛いと言いながら水を飲むスピッドファイアを横目に、レンジャーは再びソファに座る。

頭が痛い。喉が痛い。身体中が痛い。死ぬ。助けて。
そう言ってスピッドファイアがレンジャーに助けを求めてきたのは今朝の事。
熱を計れば39度超え。明らかに風邪だった。
よりによってランチャーとメカニックが家を空けている時に風邪をひかなくても、とレンジャーは僅かに恨めしく思う。
まともな看病なんて出来る自信もないし、面倒くさい。
だが置いて家を空けるのは躊躇われるし、出掛ける予定もない。そのため、リボルバーの手入れをしながら、仕方なくスピッドファイアの傍らにいる事にしたのだ。

「さびぃぃ…、死ぬ…、暑いぃ……」
「…感染すなよ」
寒い寒いと毛布を首まで寄せ、しばらくすれば暑い暑いと騒ぎ出す。
身体の節々、特に首裏が痛くてたまらないようで、しきりに首を捻る。
「死ぬ…、…まじ死ぬ……」
「………」
弱々しい声で繰り返すスピッドファイアを、レンジャーが黙って見る。
普段は無駄にテンションが高く、常にトラブルを持ち帰ってくるような男が、熱を出して寝込んでいる。
『馬鹿は風邪をひかない』という言葉通り、今までレンジャーが知る限りではスピッドファイアは風邪には無縁だった。そのため、今回の事は不謹慎ながら新鮮に思える。
「なんで風邪ひいたんだ」
「…分かんね…、呑みすぎてシャワー浴びて…、乾かさずに真っ裸で寝たくらいしか……」
「明らかにそれだ」
リボルバーの手入れをしながら興味本意で風邪の原因を聞けば、返ってきた答えにレンジャーは呆れる。
暦の上では春になり、随分暖かくなってきたが、それでも朝晩はまだまだ冷え込む。
それなのにシャワーを浴びて乾かす事なく、挙げ句の果てに裸で寝るとは。いくら馬鹿でも風邪をひいて当然だ。
「馬鹿だろ、お前」
「うるせー…、…あー…痛い…、死ぬ……」
「………」
弱々しい声をあげて毛布にくるまる姿に、これ以上話をするのは止めようと、レンジャーは手元のリボルバーに視線を戻す。
しばらくすれば、スピッドファイアは眠ったらしい。所々息苦しさが伺える寝息が聞こえてきた。

「…感染すなよ、馬鹿」
ゼェゼェと息をし、苦しそうに眠っているスピッドファイアに、レンジャーは呟く。
普段は騒がしくて困った男だと思っていたが、熱を出して寝込んで静かになると、それはそれで違和感がありこちらの調子が出ない。

騒がしい事は困りものだが、今は早く元気になればいい、と考えながら、レンジャーはリボルバーの手入れを進めた。







─Catch a Cold─


39度超えの熱とはいえ、傍にいてあげるなんて優しいというか気色悪いですねo




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