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□Happy Halloween?
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「お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ!お菓子をよこせっ!」
「え、なに?」
弾薬の材料を補充しようと街を出てしばらくして、スピッドファイアに1匹のお化けが突っ掛かって来た。


お化けといっても、頭からすっぽりお化けを模した布を被った、背の低い子供のような生き物。
「あぁ、ハロウィン?」
ここでようやく今日がハロウィンだという事に気付いたスピッドファイアに、お化けが呆れたように被っていた布を取り去った。
「もー、スピさんノリ悪いよー、ハロウィンなんだからさぁ」
取り去った布を手に、お化けに仮装していたバトルメイジが機嫌の悪そうに口元を尖らせる。
「悪い悪い、お嬢ちゃん」
「で?お菓子はー?」
「あー、持ってない」
「えー」
ハロウィンだなんて、すっかり忘れていた。
だが、周りをよく見てみれば、至るところにお化けカボチャやコウモリ、魔女や黒猫を象った飾りが目に入る。
まだ夕方なので仮装してる人は見当たらなかったが、日が暮れたら家にも仮装した子供が来そうだ。
「まぁまぁ、甘いものがあるカフェでも一緒にどう?」
「それナンパじゃんー。もーっ!」
「あ、バレた?」
スピッドファイアがケラケラと笑ってバトルメイジの頭をぽんぽんと撫でる。
仕方がないので向かいの店を指差す。
「なら、あそこで好きなお菓子買ってやるからさ」
「ほんとー!?ならね、エレちゃんとサモちゃんと学者ちゃんの分もー!」
「はいはい、いいともお嬢さん」
ちょっと子供だが、レディーはレディー。ハロウィンという事もあるが、無下に扱うなんて紳士としてありえない、とスピッドファイアがバトルメイジを連れて店に入る。
そこは、ケーキ屋の中に雑貨屋が併設された店だった。
「やーおいしそー!これとこれとー!」
「はいはい、どうぞ」
女の子の好みをそのまま具現化したような可愛らしい店内に並ぶケーキを、バトルメイジは端から選んでいく。
たまたま向かいにあったため入っただけだったが、やけに可愛くていい店だ。もしかして場所を計算した上でのハロウィン作戦だったのかと、スピッドファイアは一瞬考えてしまった。
「あとこれとこれっ!」
「もうOK?」
「うん!」
たかがハロウィンでかなり高くついたな、と思いながら代金を支払う。
店を出ようとしたところで、すれ違いでソウルブリンガーが疲れたような顔で店に入って行った。
あぁお菓子をくれと追い回されたんだなと、すぐに分かるソウルブリンガーの表情に笑いながら店を出る。
「スピさんありがとう!イタズラしないであげるね」
「イタズラって何するつもりだったんだ?」
「水チェイサーぶつけるつもりだった!」
「……あぁそう」
素直にお菓子を買い与えて正解だった。

上機嫌のバトルメイジと別れ、弾薬の材料を買い集める。
次第に日が落ち、徐々に辺りが暗くなってきた事に、スピッドファイアは慌てて食料店に入った。
「何か買っておいた方がいいよな…」
日が落ちればきっと、仮装したお化け達にお菓子をねだられるに違いない。
お菓子をあげなければどんな悪戯が飛び出してくるか分からないが、相手によっては先ほどのバトルメイジのように、命の危険がないとは言えない。
保身のためにも、商品棚に置かれていたキャンディやクッキーを、適当に購入して店を出た。


家路へ就く途中で日が暮れ、街頭の灯りがポツポツと点き始める。
しばらく歩いていると、狼の着ぐるみを着た人物が近付いてきた。
「がおー!トリックオアトレード!」
「……、トリックオアトリートね、お嬢さん」
狼が元気よく叫んだ内容を、冷静に訂正する。
「あれ、トリート?トレード?トレンド?」
狼の被り物の隙間から見えた顔と声、そして少々抜けた言動から、グラップラーの少女だとすぐに分かった。
「トリートトリート。はい、どーぞ、グラちゃん」
「ありがとー!」
先ほど買ったクッキーを一袋渡せば、グラップラーが飛び上がる勢いで喜んで礼を言う。
「次は格闘家の男供を脅してくるぞーぉ!ばいばーい!」
大きく手を振って走り出す。
男の格闘家達なんて全員、ハロウィンなんて行事に敏感とはとても思えない。
可哀想に、グラップラーのスープレックスやスパイラルハンマーの餌食になるに違いない。
ご愁傷様、とスピッドファイアは狼の着ぐるみを着たグラップラーの後ろ姿を見送った。


『トリックオアトリート!』
『はい、お菓子ね』

「……、早く帰ろ」
後方から聞こえてきた子供と大人の声のやり取りに、スピッドファイアは早足で家へと向かった。



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