Short

□Cake Day
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12月24日、クリスマスイヴ。

「クリスマスかぁ…」
ヘンドンマイアの街中を歩きながら、メカニックが呟いた。


小雪が降るなか、色とりどりに飾り付けられたたくさんのクリスマスツリーが街を彩っている。
冒険者達もクリスマスくらいは身体を休めて楽しみたいのか、いつもより通りに人が溢れていた。

マルバスの従者が雪で濡れている事に苦笑いを浮かべ、メカニックは目当てのケーキ屋に入った。
たまに無性に甘いものが食べたくなる時があるのだが、今がまさにその時だったのだ。クリスマスの雰囲気につられている部分は否めないだろうが。
「ホールで買っちゃおうかなぁ…」
ずらりとディスプレイされたケーキを見て呟く。
同居人3人の中に甘味好きはいないが、今日はクリスマスイヴだ。今日くらいは甘いものを食べようとするかも知れない。
せっかくだからと考え、メカニックは目に止まった6号サイズのプリンケーキを購入した。
帰りがけに通り掛かった月光酒場では、ウェポンマスターとバーサーカーがジョッキ片手に既にでき上がっていた。なんだか去年も同じ光景を見かけた気がする。
だが今年はウェポンマスターとバーサーカーの他に、男の格闘家達も酒に興じていた。
クリスマスイヴに男ばかりの酒場で酒盛りとは。
可哀想に、なんて、男4人で共同生活をしている家に今から帰る自分の事を棚に上げて思う。



「ただいまー」
帰宅し、玄関で雪を払う。
さっさと靴を脱いでリビングに入ると、ソファでランチャーが雑誌を読んでいた。
「あ、おかえり」
「ただいま。ラン見て見て、ケーキ買ってきたんだ。後で食べようよ」
「えっ!ケーキ買ってきたのか!?」
「うん。…どうしたの?」
ランチャーの予想外な反応をメカニックは怪訝に思う。
クリスマスイヴにケーキを買って来てはいけない理由なんてないだろう。
だがランチャーはばつの悪そうな表情を浮かべ、読んでいた雑誌をソファに置いた。
冷蔵庫に向かい、中から20センチ程の紙箱を取り出した。
「俺もケーキ買って来たんだ…」
「えっ!」
更に予想外だったランチャーの言葉に驚く。
だが箱の中には確かに5号サイズのチーズケーキのタルトが入っていた。
「クリスマスだから、たまにはいいかなって思ってさ…」
なるほど、ランチャーもクリスマスの雰囲気につられてしまったようだ。
小さいケーキだし、4人で食べれば2台くらいなら今日明日で食べきれるだろうと結論を出し、2人で苦笑いを零す。

2台のケーキを冷蔵庫に入れ、ランチャーが淹れたコーヒーを手にソファにまったり腰掛ける。
「雪止まないねー、積もるかなぁ」
「このまま降れば積もるだろうな」
「夜ご飯なに食べるー?僕ケーキしか買って来なかったよ」
「俺も」
コーヒーを飲みながらメカニックが窓の外を見る。
随分と雪の量が増え、ランチャーの言う通りこのまま降れば積もりそうだった。
雪が降る寒い中、夕飯を調達しに行くのはかなり億劫だ。
まだ帰宅していないスピッドファイアかレンジャーのどちらかが、丁度良く夕飯になるような物を買って来てくれないかな、とメカニックは思う。
すると、そんな願いが通じたのか、玄関の扉が開く音がして2人分の話し声が聞こえてきた。
話し声は徐々に大きくなり、やがてリビングの扉が開く。
「だーかーらぁ、クリスマスくらいって思うだろ?むしろレンの方が違和感バリバリだっつの」
「安かったんだ」
「知るかっ!」
じゃれ合いとも口論とも取れる会話をしながら、スピッドファイアとレンジャーが入って来た。何やら2人とも大きな紙袋を手にしている。
「おかえりー、…何かいい匂いする!ご飯ご飯?」
「あ?…あぁ、これか?ピザ買って来た。冷めねぇうちに食おうぜ」
「ほんとー!?やった、スピありがとー!」
スピッドファイアが差し出してきた大きな紙袋を受け取り、メカニックがテーブルに皿を並べる。
同じく礼を言ったランチャーが手伝おうとして、ふとまだスピッドファイアの片手に収まっている紙袋が目に止まった。
スピッドファイアは変わらずレンジャーとじゃれ合っていたが、そのレンジャーの手にも別の紙袋があった。
まさか、と思い、ランチャーが2人を見る。
「…なぁ、その紙袋、中身は?」

スピッドファイアはともかくとして、まさかレンジャーまでは、と考えながらも聞いたのだが、返ってきた答えにランチャーは噴き出しそうになった。

「あ?ケーキだよ」
「…ケーキだ」








─Cake Day─


ケーキ4つ!

ちなみにスピがブッシュドノエル、レンがショートケーキを購入o



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