Short

□緩い夜の話
1ページ/1ページ


夜の11時を回った頃だった。
普段なら眠るには早い時間だったが、夕方までダンジョンを回って疲れた身体が貪欲に睡眠を要求してきた。
寝酒もやめて寝てしまおうとベッドに入り眼を閉じた、まさに数秒後。
隣の部屋の玄関扉が開く音がした。
続いて二人分の足音が小さく聞こえ、微かに男女の話し声が耳に入ってくる。どうやら隣人であり友人のデスペラードが帰宅したらしい。
昼間は隣人の生活音など気にならないのだが、静寂な夜の時間帯はいかんせん声が響く。
そして経験上、この時間は、…まずい気がする。
「…あー、…」
デスペラードが連れ込んだらしい女とセックスを始めて、甲高い喘ぎ声が耳に入ってくる前に回避しよう。
過去に何度被害に遭ったか分からないその実害を思い出し、眠りに向けて準備を始めていた重い身体を起こし、マルチプルマガジンとオートマチック、そして財布をパンツの後ろポケットに突っ込んで部屋を出た。

朝方まで月光酒場にでも入るか、別のバーにでも入るか。
とにかく時間を潰したい、あわよくば眠りたい。
あの部屋の立地は気に入っているが、隣室に女遊びの激しいデスペラードが住んでいる事が問題だ。いっそ引越すべきか。
どうしようかと足踏みをしたところで、ふと、友人であり恋人でもある男の顔が頭に浮かんだ。
以前、夜に隣人の声が響くのがキツいと愚痴を漏らした時、『そういう時は夜中でも俺の部屋に来てくれていい』と言ってくれたっけ。
「…行ってみっか、」
その言葉を言った事自体もう忘れてるかもしれないが、甘えられるものなら甘えたい。
とりあえず行くだけでも行ってみようと、友人の住むアパートの方向へと踵を返した。




時刻は深夜0時前。迷惑極まりない時間の訪問だが、仕方がない。
友人のアパートの部屋の扉をノックするも、返答はなかった。
まだ数えるほどしか使った事のない合鍵で静かに扉を開け、電気の点いていない暗い部屋を手探りで進む。暗がりの中を迷いなく歩けるほど、この部屋にはまだ慣れていない。
息を吸い込むと、微かな火薬の匂いと、更に微かな硝煙の匂い。
暗闇に慣れてきた目でベッドを見ると、友人であり恋人である──ブラスターが眠っていた。

クエストをこなしている最中だと、前会った時に言っていたっけ。疲れているのかも知れない。
起こすのは可哀想だ、声をかけずに黙ってソファを借りようと思ったが、静かに眠るその寝顔を思わず覗き込んだ。
「…ブラスター、」
口内でそっと名前を呼ぶ。
普段なかなか見る事の出来ない恋人の寝顔。
冷たく見えても実は柔らかい眼差しだとか、あまり動く事のない眉だとか、例えば、不意打ちで重ねてくる唇だとか。
目鼻筋の通った整った顔立ちはけれどたまに少し緩んだり、この綺麗な銀の髪は案外柔らかかったり。
意外にキスをするのが好きだったり、淡白かと思いきやたまに首筋に顔を埋めて安心すると犬のように甘えてきたり。
情熱的に絡めてくる舌や、無理のない優しさを知っている指先だとか、過保護なまでに心配して抱き締めてくる鍛えられた腕だとか。
…ぜんぶ、俺だけのもの、だよな?

「ブラスター、…ソファ、借りるな?」
急に物欲しくなった自分がばかばかしくて、けれど目の前で眠る恋人が僅かに恋しくて顔を寄せ、呟くような声量で断りを入れる。
片手で髪を撫でれば小さく身捩いだ姿が少しだけ可愛く見えて、ゆっくりとその唇に自分のそれを重ねた。
「…おやすみ」
同じようにゆっくりと唇を離し、小さく声をかけ身体を起こそうとした時だった。

「っ、」
「─ジェネラル、」
離しかけた背中に腕を回され、ぐっと引き寄せられると同時に静かな声色で名前を呼ばれた。
バランスを崩しかけるのを慌ててベッドに手をついて支え、至近距離にある友人の顔を見れば、しっかりとその両目は開かれていた。
「…悪い、起こしたか?」
どうやら起こしてしまったらしい。
唇を重ねた事がばれていませんように、そう願った。
「どうして、ここに…?」
背中に回した腕はそのままで、耳元で囁くように訊いてくる。自分より低い静かな声と、耳にかかる微かな吐息が少しくすぐったい。
「…隣の部屋が、またうるさくなりそうだったから避難しに来たんだ」
こんな時間に悪い、と最後に付け加えれば、ブラスターは背中に回したままの腕に更に力を込めて抱き寄せてきた。
「どんな理由でも、ジェネラルに会えて嬉しい」
「……、」
声色の僅かな変化だったが、ブラスターが小さく笑っているのが感じ取れた。
甘えるように首筋に顔を埋め、続いて顔を寄せられ口づけられる。
「っ……、」
口づけに何か反応するより前に舌が緩く挿し入れられ、頬を優しく手のひらで包まれた。
緩く絡む舌と溶けていくお互いの吐息が甘く身体全体に染み込んでいく。
「っ…ブラスタ…、ん…」
徐々に身体から力が抜けて思わずブラスターに凭れかかる。
それを優しく受け止めた友人の片腕が服の下に遠慮がちに滑り込んできた事に気付いて、今度は自分の意思でゆっくりと身体から力を抜いた。


ブラスターに抱かれる。
けれど抵抗する理由なんて、この忠犬のような友人に最初から奪い取られ、甘い疼きの中に溶かされていたのだ。








―緩い夜の話―


ブラスタ×ジェネラルo 
まだ友人から恋人になって間もない夜の話o
元は♂レンとデスペでしたが違和感しかなかったのでこの2人にo




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ