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□戦場の熱
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「軍曹!指示を…!」
至近距離でカルテルの撃った砲弾が着弾し、混乱した部下に指示を出してくれと煽られる。

ここは天界の無法地帯、霧の都市ヘイズ近郊の荒野。皇都軍とカルテルの激戦地帯だ。
アラド大陸から来た冒険者の協力で、皇都軍はじわじわとカルテルを追い詰め、かつて劣勢だった戦況は遂に逆転した。
だが敵は、アントンのパワーステーション襲来の影響があったとはいえ、二度も皇都を攻め込み脅かしてきた、無法地帯最大の組織、カルテルだ。
そう簡単に倒れてはくれない。
大規模な会戦こそなくなったものの、今でも皇都軍とカルテルの戦争は続いていた。今はまさに、その戦場。



「軍曹っ、指示をっ…指示を出してください!」
半ばパニックに陥っている部下の兵士が、軍曹である自分に縋るように叫んでくる。
ここはカルテルとの戦争の最前線、激戦地の中央だった。
部隊が崩れ、部下の兵士は戦場に飲まれ統率のかけらもない状況だ。
だが、自分はそもそもこの戦闘の指揮官ではない。指揮官は少佐のジェネラルだ、ブラスターとはいえ、たかだか軍曹の自分ではない。
ジェネラルは先ほどまで、自ら戦いながらも前線で指示を出していた。
だが今は姿が見えない。一体どこに行ってしまったのか。
隊列すら崩れた部隊を視界の隅に追いやり、衛星の機能を使い戦場を見渡す。

重い鉛色の空には黒煙が舞い、至る所から爆発音や銃声が鳴り、息つく間もなくそれが自身の脇を掠めるが如く至近距離を飛び交う。
何とか平常心を保ち、衛星の眼を使って上官の姿を探す。
「…っ!」
そして、ようやく視界の端に映った見慣れた銀髪に、ブラスターは安堵する暇もなく息を飲んだ。
ジェネラルは、敵の砲撃に晒されていたのだ。

ギリギリの距離で銃弾の嵐から逃れるジェネラルに、ブラスターは部下を無視し単身飛び出した。
ジェネラルとはまだ距離がある。
徐々に追い詰められていると分かる上官の姿に、ブラスターはシュタイア対戦車砲を構え、カルテル兵に向けて弾頭を撃ち込む。
間も無く爆発し飛び散る肉片に瞬きすらする事なく、必死にジェネラルの元へと走る。
「ジェネラルッ…!」
間に合わない。
早く走れない、背中に背負った重火器が重い。
何が重火器だ。
邪魔だ。
こんなもの、今はただの、金属のガラクタだ。
「っ…、!」
一瞬でも遅れれば彼を助けられない。
ブラスターは無心で、戦火の中を駆けながら背負っていた重火器を捨てていった。
レーザーライフル、ガトリングガン、シュタイア対戦車砲。
次々と自らの身体の一部とも言える重火器をかなぐり捨て、最後には身一つで彼の前に飛び出す。
彼を狙った銃弾が彼の四肢を貫く寸前に、彼の身体を抱きしめ地面へと伏せた。
瞬間、至近距離に砲弾が着弾し、凄まじい爆発音が鳴り同時に身体が吹き飛ばされる。
痛みと衝撃に、そのまま弾かれるように意識が飛んだ。






「…っ…! ゲホッ!げほげほっ…!」
ぐらぐらと揺れる脳の感覚。次に襲ってきたのは、息が出来ない程の息苦しさ。
気道を塞がれたようなそれに、一気に意識が覚醒し、ブラスターは激しく咳込んだ。
爆発で抉れたらしい土が身体に覆い被さり、土と灰に汚れた目元を、同じく汚れた腕でゴシゴシと乱暴に拭う。
痛む身体を起こせば、自分の傍らで倒れている彼──ジェネラルに気が付いた。
「ジェネラル…!」
慌ててジェネラルの肩を揺すり、同時に身体の状態を確認する。
汚なく、ぐらぐらと揺れる視界だが、酷い怪我は負っていないと分かった。
「…ブラスター…、…?」
間も無くして薄目を開けたジェネラルに、静かな声で名前を呼ばれる。
「…ひどい顔だ、」
「…ジェネラルこそ、…」
薄く笑った上官の表情に、ブラスターも思わず小さく笑う。
お互い灰や土、血で汚れた顔と身体。
仰向けに倒れたままのジェネラルの前髪を、血に染まった指先で退け、ブラスターはそのままジェネラルに顔を寄せた。
そっと、触れるだけのキスをする。
ジェネラルは、何も言わず片手を上げてブラスターの頬を撫でた。






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