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□皇都軍の守護者
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皇都軍とカルテルの残党との戦いが終わった荒れ果てた戦地の片隅でひとり、彼は泣いていた。

「なにもない…」
生々しい血の匂いと弾痕。榴弾により倒壊した建物の瓦礫。
そこには、たったそれだけしかなかった。
「こんなはずじゃ…」
こみ上げる嗚咽から歪んだ声を絞り出し、その拳を握り締める。割れた爪が食い込んだ手のひらから、血が滲み滴り落ちた。



皇都軍の南海岸守備隊のブラスターに憧れ、皇都軍に入隊したのは10年前。
カルテルの巨大兵器と対峙しても怯まず殲滅し、時に鉄壁の盾となり人々を護るその姿に憧れた。
必死に訓練を重ねランチャーとなり、数々の戦地をくぐり抜けブラスターとなった。
だが、命を賭したカルテルとの戦争が終わりを告げても、残党との戦い、果ては工業地帯に残る使徒アントンとの戦いが待っていた。
もっと強くならなければ、人々を護れない。
だが、更なる強さを求めて戦地に身を投げ、従来手にしていた衛星の眼と支援砲に加え新たな巨大兵器とレーザー銃を手にした自分は、もはや軍に忠実なブラスターとは呼ばれなくなった。
『デストロイヤー』──そう呼ばれた。
すべてを破壊し尽くしてしまう、破壊者だと。


もはや味方さえも消し飛ばしてしまうと畏怖され破壊者と呼ばれた彼は、戦場にしか居場所がなくなった。
その戦場の片隅で、涙を流す。
『貴様の放った重火器の攻撃が、自軍にまで降りかかったんだ!』
『旧市街地とはいえ、民家まで破壊したのか!』
『なにがブラスターだ!この破壊者が…!』
一歩戦場を出ると浴びせられた罵声。
嫌だそんな風に言わないでやめて──そう叫びたくなる悲痛な声は、吐き出すことなく心の奥底に沈んだ。


「デストロイヤー、」
「……」
不意に、背後から静かな声をかけられる。
ジャリ、と靴が砂を踏む音がして、続いて、僅かな風になびく重みのある布音が耳に入った。
振り返らずとも分かる。上官であるコマンダーだ。
「…その名前で呼ばないでください」
「何故だ?」
自分がその名で呼ばれる事を酷く拒絶しているのを知っているはずなのに。
彼は情け容赦なく、破壊者と呼んでくる。
「…嫌だ、呼ばないでください」
己の放った攻撃で何もかも破壊し尽くしてしまった戦場を見渡し、両腕で頭を抱えて蹲る。
こんなはずじゃ、なかったのに。
ただ、人々を護りたかっただけなのに──。


「ぅ、…っう、…」
こみ上げてきた涙は抑えきれず、それは遂に嗚咽と共に零れだした。
戦場の片隅で泣き崩れたブラスター、──いや、デストロイヤーに、真紅の軍服を纏ったコマンダーは歩み寄った。
横に並び、泣き崩れた部下を見ることなく口を開く。
「デストロイヤーという呼び名は、お前にふさわしい」
「っ、…」
「破壊者で何が悪い。 その破壊者こそが、皇都を護っている」
何もなくなった戦場を見渡し、それでも一分の迷いもなく毅然と立つ上官の姿に、デストロイヤーは顔を上げた。
それを確認して、コマンダーが腰を曲げ、蹲っていた部下の頭を手袋越しに乱雑にぐしゃぐしゃと撫でた。
「破壊者と呼ばれる事を、誇りに思え」
「…誇り、」
「少なくとも、私はお前を誇りに思っている」
「…自軍に被害を及ぼしても、ですか」
「お前の前方を遮った無能な連中が責任転嫁しているだけだ、馬鹿の言う事は無視しろ」
「…は、っ」
ストレートに物を言う上官の言葉に、思わず僅かな笑いがこみ上げてきた。
こちらの感情を見透かしたように話す彼の言葉には、いつも救われる。
「自分に自信を持て。いいな」
「…、はい」
諭すように言われた言葉に、頷く。
灰で汚れたままの腕で涙を拭い、立ち上がる。
改めて見た戦場はやはり何もなく、己が破壊したそのままの姿だった。

眼を閉じて、衛星の眼を通じて遠く離れた皇都を見る。
そこには、戦場とは切り離された、人々の平和な日常が広がっていた。


「デストロイヤー、間もなく出撃だ、行くぞ」
踵を返し軍服をはためかせキャンプへと歩き出した上官に、眼を開けしっかりと頷く。
「はい」
自らが守り抜いた、平和な日常が広がる皇都の光景を瞼の裏に焼き付け、再び自らが破壊し尽くした戦地をその瞳に映す。

どう足掻いたところで、自分は破壊者だ。

けれど今、大切なひとたちを護れるのなら、どんな汚名でも、背負っていけると思った。








─皇都軍の守護者─


フライングしましたo
『デストロイヤー』という名前をどう受け止めるかは、人それぞれなのかなぁとo




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