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□欠けた兄弟の話
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天界の戦場を生きるガンナーにとって、銃は言わずもなが眼と腕も命よりも大切なものだ。
視力や、片腕、両腕を失ったガンナーは、もはやガンナーではなくなり、戦う事すら出来ずに無様に殺されてしまう。
特に、皇都軍が誇る、重火器と衛星砲を扱う精鋭、ブラスターとデストロイヤーにとって、何よりも大切なものは眼だった。
衛星と接続し、地上のすべてを見渡す事が出来るとされるスペクトラルサーチアイ。
その『衛星の眼』を持つ彼らの眼は、皇都軍の眼でもあった。
だが、そんな命よりも大切な眼を片眼ずつ失った兄弟が、皇都軍にはいた。











「デストロイヤー」
皇都軍の敷地内を歩く一人の男に、上官である真紅の軍服を纏ったコマンダーが声をかける。
「はい、中佐」
声をかけられた男──デストロイヤーは、立ち止まり上官に向けて敬礼の姿勢をとった。
なおれとコマンダーが手を振ると、一拍おいてデストロイヤーが敬礼を崩す。
同時に、皇都軍の敷地と外を繋ぐ正面の門が兵士の声と共に開き、出撃していた兵の帰還を知らせた。
「あぁ、すまない。出迎えだったのか」
「はい、弟です」
「そうか」
デストロイヤーの弟も同じく皇都軍人だ。
出撃から帰還する弟を出迎える兄に、手短かに用件のみを伝えようとコマンダーは早口で話す。
「明日の会議の時間、一時間遅らせる。部下に伝えておいてくれ」
「分かりました」
「それだけだ。引き止めて悪かったな」
もう行っていいと手で示せば、失礼します、と律儀に頭を下げたデストロイヤーが踵を返した。
コマンダーとデストロイヤーは、上官下官の関係以前に友人関係だ。だが、公私混同はしないデストロイヤーは、プライベートでなければコマンダーには必ず敬語と、部下らしい態度をとる。
軍務内でも友人として接しても構わないのに。
律儀な男だ、とコマンダーはデストロイヤーの後ろ姿を見て肩を竦めた。



「報告!」
正面扉をくぐり、出撃から帰還した兵の一人が報告に走るのを横目に、デストロイヤーは実弟であるブラスターの姿を探した。
負傷兵が運ばれて行く様子に僅かに背筋がざわついたが、そんな一瞬の心配を綺麗に洗い流すように、見慣れた銀髪が視界の先に入ってきた。
「ブラスター」
よく知った弟の後ろ姿に名前を呼んで歩を進めると、ブラスターはすぐに振り返った。
「兄さん」
背負っていた重火器を下ろし、こちらに笑顔を向ける。
「ただいま」
「おかえり。怪我はしてないか」
「大丈夫」
灰や土で所々汚れていたが、弟が五体無事に帰ってきた事にひとまず安堵した。





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