短いの(夢)
□軽い言葉で
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午前2時。
普通の、一般的には寝静まっている時間である。
仕事が終わってやっと帰宅。軽くシャワーで流して寝ようと段取りを考える。
(あ、寝る前に連絡入れなきゃ)
脱衣所で服を脱ぎ、風呂に入ろうとした瞬間足下が滑った。
「うわっ!…っつー…痛い…」
尻餅をついたため体が痛い。まるで骨が一段ずつ跳ねたようだ。
立ち上がろうとすると足首が痛んだ。
「やばっ、捻っちゃった…こりゃ入れないな…」
仕方がないのでシャワーは諦めた。
洗面台の前にキャスター付きのイスを持ってきて座りながら歯磨きと洗顔をすませる。
湿布の枚数を数え捻った場所に貼る。
固定用の包帯を巻き、あいつに連絡を入れる。
(けが、最近してないから使ってない残り…捨てようかと思ったけど…役に立った)
『…』
「今日、どう?」
『…』
プツッ、ツー、ツー…
電話が切れた。
なんと一方的な会話だったろう。(果たして会話といえるのだろうか…)
気だるい体を動かしてベッドの上へダイブした。
五分後、戸が開く音に加えてずかずかと入ってくる足音。
それは、横でぴたりと止まった。
「なにしてんの」
「なにって…あんた待ってた」
「じゃなくて、足」
「あぁ、さっき風呂入ろうとして滑って転んで捻った」
経緯を説明するとさっきまでピリピリしていたような空気が一気に一転した。
「っあははっ!!ばっかじゃねー?マジうけるーっ!!!!つかその状態で俺にめーれーしてたとかマジないわーっあっはっはっはっは!!!!」
こうなった持田はちょっとの間止まらない。
自分の気が済むまで笑い続けるのだ。
「はいはい…で?はやくしよーよ」
「あー、そーだねー…っと」
「ったぁ!!…っ…あんた、鬼だね…」
「鬼?なにいってんのさ、俺めちゃくちゃやさしーじゃん。」
ほら、といってギリギリと足首を握り締めていく。
「っ…は、はやく、し、よって、ば…っ」
「ふん、もう相当キてんじゃねーの?」
「んなことないよ………って、なに、やめんの?」
「ん、気が変わった。」
気が変わった、そういったときの持田は大抵なにもしない。
上半身の服を脱いで布団の中にもぐり込む。
「あのさ、ずっと気になってたんだけどなんで上脱ぐの?」
「…じゃまだから、おんなみてーに」
「なにそれ、ははっ」
女みたいに邪魔と言っているが、それでは私は何なのだろう。
「ねぇ、なに考えてんの?」
「…あんたのこと」
「へー。つってもどうせ女邪魔っていいながら自分置いとく理由とかそんなもんだろ」
「………」
「なに、まじめにそうだったの?ばっかじゃねー」
黙り込んだ私を見て嘲笑う持田。
結構結構。私は平気。
「おまえ、ほかの女みてーにうざくねぇもん。必要なとき抱けって呼んで好きなようにさせてくれるし。」
ほかの女とかマジ無理、と笑いながら言っている持田の横に滑り込み、すり寄ってみる。
「ぷっ、お前何のつもりだ?いつもならこんなことしねーくせに。」
「……」
だまって胸元に顔を埋める。
次の瞬間、頭に痛みが走った。
「っ!」
髪を掴まれ、顔を上に向けさせられる。
「お前、殴られたいの」
「…勝手に、して」
その返事をどう受け取ったのだろうか。
眉を寄せ、目を瞑っている私はなぜか持田にキスをされていた。
「…何のつもり」
「しらねー、どうしようと俺の勝手だろ。」
その言葉を最後にただただキスをする。
啄むような短いキスからだんだん深く、長いものへ変わっていく。
「っ…ふ、」
「声出したいなら出せよ」
一呼吸する間もなくまた舌を入れられる。
「あ、…んふ、、、っア、は…」
歯列をなぞられ頭がぼうっとしていく。
快感に意識が持っていかれそうになるのを理性でつないでいるのが精一杯だ。
「この部屋、俺貰うから。」
突然止まった持田の言葉に耳を疑いたかったが脳が付いていかない。
私はただ、はい。と答えるしかなかった。
「お前の小屋だから、ここ。逃げんなよ」
その部屋の最後の言葉は簡単に理解できる、重い鎖のようだった。
(こんなことであなたと関わりがもてるなら)
(死ぬまでこれでいいの)
END