「寿、ちょっと醤油買ってきてくれない?」 「はあ?」 「アンタ、全然外に出てないじゃない。お金は出すから気分転換に行ってきなさい…!」 「はいはい」 大学も決まって、だらだらと過ごす毎日。学校があれば楽しいんだけど、2月から俺達3年は学校がない。 ───あとは卒業式を待つだけ。 「そう言えば、明後日はバレンタインか…」 自慢じゃねぇけど、中学ん時は結構な量を貰ってたな。…面倒くさくてホワイトデーにお返しなんてしたことねぇけど。 「…行ってくるわ」 久々の外の空気を思いきり吸って吐く。やっぱり家でゴロゴロしてるよりも外にいた方が俺には似合うな。 ───赤木や木暮の大学が決まったら、久しぶりに可愛い後輩のために部活に顔出しでもするか。 そんなことを思いながら歩いていると十字路から同じクラスの奴が飛び出してきた。 「あ」 「…よっ」 久しぶりに見たクラスメイトに向かって軽く手を上げた。そのまま自然に俺達は並んで歩き始める。 「何処行くんだ?」 「ちょっとスーパーに買い物。…三井は?」 「俺もスーパーに。醤油買ってこいって頼まれて」 「ぶふっ!三井が、醤油…似合わない…!」 「わ、笑うなよ!」 顔が熱くなるのが感じる。けどコイツはそんな俺を見て更に笑い出す。───ちょっ、目から涙が出るぐらい笑うなって…! 「ごめんごめん…!」 「おい、肩が震えてっぞ。つーか、お前は何買いに行くんだよ」 「何って板チョコ。バレンタイン用に」 「え?」 コイツの言葉に足が止まった。───おい、コイツ好きな奴いたのかよ。俺の中で何かが崩れるような音がした。 「お前、好きな奴、いんのか?」 「…え?」 「だーかーら、好きな奴いんのか!?」 「い、いるわけないじゃん…!バレンタインって言ってもあげるのは女友達だけだし…」 「…そう、なのか?」 「う、うん」 「そっか…」 沈黙が流れる。 なんだ…好きな奴いねぇのか。マジでビビったじゃねぇか。 ───でも、いなくて良かった。 「なあ…俺も、欲しいんだけど」 「何を?」 「…お前の作ったチョコ。ダメか?」 「え、ああ…うん、いいけど」 その言葉に俺は小さなガッツポーズを作った。───明後日が楽しみすぎる。 「ほら、スーパー行くぞ!」 「あ、ちょっと待ってよ!」 ニヤケ顔を隠すように走り出す。───アイツの一言でテンションが上がったり下がったり…本当、俺はとんでもない病気にかかっちまったもんだ。 緩やかに上昇中 title >> Largo 20110214 |