卒業してから1週間、やっと卒業したという実感が沸いてきた。 これから新しい生活が始まる。───そう思うと何だか嬉しくもあり寂しくもあった。 今まで使っていた教科書や参考書、ノートやファイルを大きな段ボールに詰めこんだり、配られたプリントを必要なものと不要なものに分けたりと部屋の整理をしていると、机に置いていた携帯が震えた。 メールの送信相手は三井だった。 『今、時間あるか?』 絵文字も顔文字もないシンプルな一行メール───大丈夫、とだけ打って送信するとすぐに返事がやって来る。 『今からそっち行く。渡したいもんがあるから』 「渡したいもの?…渡したいものって何だろう?」 そう思いながら部屋を出て、玄関に向かう。 外に出ると3月らしくない少し冷たい風に体が震える。 携帯で時間を確認しながら玄関で待っていると、三井が走ってやってきた。 「久しぶり」 「おう」 「何も走って来なくてもいいのに」 「トレーニングだよ、トレーニング」 「そっか、三井って持久力ないもんね」 「うっせーよ」 「本当のことじゃん。…で、渡したいものって?」 「これ、卒業式の時に撮ったクラス写真」 「ありがとう!」 封筒から写真を出して眺める。───みんないい顔してるなあ。 「って、三井座り方ヤンキーだよ!」 「あ?んなもん男は全員やってるだろ」 「いやいや、三井はね全体からヤンキーオーラが出てるから」 もう一度、写真に写る三井を見る。───やっぱりヤンキーオーラ出まくりだって。さすが元ヤン…! 1人で必死に笑いを堪えていると、三井の深い溜め息が聞こえた。 「おい、いつまでも笑ってんじゃねぇよ…」 「ご、ごめん。なんか面白くて…!」 「これやるからもう笑うな」 「え?」 写真の次に手渡されたものは小さな紙袋。 ───自然と笑いが治まった。 「ん、これは?」 「お返し」 「何の?」 「…バレンタインの」 「あ、そっか。今日は14日か。…って、三井がお返しするなんて意外!」 「意外ってなんだよ」 「三井って貰うだけ貰ってお返ししないイメージだったから」 「俺だってな、好きな奴からバレンタイン貰ったらお返しすんだよ───あ…」 口が滑ってアイラブユー 三井は顔を真っ赤にさせて猛ダッシュで来た道を帰っていった。 え、言い逃げ!? そう言おうとしたら、すでに三井は遠くに行ってしまっていた。小さくなっていく三井の背中に向かってバーカって呟いてやった。 20110314 |