「お返しされたら嬉しいのか?」 『どうしたんですか?三井サン。そんなこと言うなんて…もしかして好きな人がいるんすか?』 「いる」 『三井サンに好きな人って意外っすね。…そりゃ、好きな人からお返しされたら嬉しいんじゃないですか?』 「アイツからは友チョコとして貰った」 『───それは…また微妙っすね』 「だろ?」 受話器越しに聞こえる宮城の溜め息につられ、俺の口からも溜め息が漏れた。 『友チョコであげた相手からでもお返しされたらきっと喜ぶと思いますよ』 「そうか。…サンキュ宮城、助かった」 じゃあ、頑張ってくださいと宮城の声が聞こえて電話が切れる。 宮城に電話したおかげでお返しする決心がついた。 「そうと決まれば…」 アイツが喜びそうなものを買いに行かなきゃな。 ───そしてホワイトデー当日。 『今、時間あるか?』 絵文字も顔文字もないシンプルな一行メールを打ってアイツに送信する。───緊張しながら待っていると大丈夫、とだけ書かれた返事がやって来た。 「愛想ねぇな、コイツのメール」 そんなことを思いながら今からそっちへ向かうとメールを返した。 女子の喜ぶものなんて全然知らねぇけど、アイツのために一生懸命選んできたお返しを持って俺は家を出た。 ───ぜってぇ、びっくりするだろうな。 アイツの驚く顔が浮かぶ。 喜んでくれることを願いながら、アイツの家へ走って向かった。 しばらくして家の近くに来ると、前にアイツらしき人影が見えた。 「久しぶり」 「おう」 「何も走って来なくてもいいのに」 「トレーニングだよ、トレーニング」 「そっか、三井って持久力ないもんね」 「うっせーよ」 「本当のことじゃん。…で、渡したいものって?」 「これ、卒業式の時に撮ったクラス写真」 「ありがとう!」 俺から写真を受け取ると、嬉しそうな顔して写真を眺め始めた。 ───いい顔してんな。そう思いながら写真を眺める姿を見つめていると、ぱっと顔があがって視線が交わった。 「って、三井座り方ヤンキーだよ!」 「あ?んなもん男は全員やってるだろ」 「いやいや、三井はね全体からヤンキーオーラが出てるから」 そう言ってもう一度、写真を見るコイツの肩は微かに揺れている。 俺は思わず深い溜め息を吐き出した。 「おい、いつまでも笑ってんじゃねぇよ…」 「ご、ごめん。なんか面白くて…!」 「これやるからもう笑うな」 「え?」 けらけら笑うコイツの目の前に紙袋を出すとさっきまで笑っていた顔が驚いたような表情に変わった。 「ん、これは?」 「お返し」 「何の?」 「…バレンタインの」 「あ、そっか。今日は14日か。…って、三井がお返しするなんて意外!」 「意外ってなんだよ」 「三井って貰うだけ貰ってお返ししないイメージだったから」 「俺だってな、好きな奴からバレンタイン貰ったらお返しすんだよ───あ…」 口が滑ってアイラブユー 思わぬ発言に顔が熱くなるのが分かる。 目を見開いて俺を見るコイツの姿にどうしようもなくなって、逃げるように来た道を全速力で走った。 言い逃げみてぇになっちまったなと思いながら、さっきの口走った言葉を思い出す。 「これから…どう接したらいいんだよ」 とんでもねぇことになっちまった。 20110314 |