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□演技よりも
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*注:こちらは『メイキング黒執事』の設定を使ったパロ小説となっております。

なのでまだ未観賞の方は、ネタバレを若干含みますので注意を☆

全然大丈夫だという方はこの先にお進み下さい。















世間は黒執事で一色。
社会現象ともなった黒執事を赤で染めた女優『グレル・サトクリフ』は、世界でもTOP10を争うくらいに有名で人気の女優であった。

一方、『葬儀屋』は、ある特殊な趣味の人には人気のある、個性派俳優として有名であった。


女優の『グレル・サトクリフ』は、絶対にスッピンを見せない素顔が不明な女優……もとい、俳優であった。

俳優の『葬儀屋』はというと、本名が不明でまた正体すらも不明であった。

そんな謎だらけな有名役者二人が噂になっていたのだ。



『付き合っている』



という噂を……。





「ちょっと何ヨ!!今からアタシはドラマの撮影があんのヨ?そこどいてちょうだいヨ!!」

「ですがあの噂は本当なんですか?グレルさんと葬儀屋さんが交際しているという噂は……」

「あーもうッ欝陶しいわねぇ〜!!どきなさいって言ってんの!!記者ごときがアタシに気安く触んじゃないわヨ!!」

「ちょッ…グレルさん?」


今日もグレルはマスコミやら何やらに追い掛け回されていた。
ちょっと外へ出ればこうだ。


だが、噂は本当だ。


別にばらしてもいいのだが、事務所がそれを許さないのだから仕方がない。
隠し通すまで。
悪魔でも自分は女優なのだから。


グレルは車に乗り込みながらそう考えていた。









「やあ、グレル遅かったねぇ〜」


撮影現場にグレルはようやく着くと、先に着いていたのか葬儀屋がいた。


「アンタ……マスコミは大丈夫だったの?」

自分はあれだけ大変だったのに……。

そう思ったグレルは何の問題もなさそうな葬儀屋を不思議に思った。


「あ〜、マスコミ?小生はそんなの関係ないよ……髪を上げて眼鏡して帽子でも被ってればだぁ〜れも小生だとは気付かないからねぇ」

「……………。」


なるほど、とグレルは納得してしまった。
確かに葬儀屋の素顔を知っているのは自分だけなのだし、素顔をさらけ出したまんま歩いていれば誰も葬儀屋だとは気付かないであろう。
家だって、本名を明かしていない葬儀屋なら住んでいる場所も探られずに済むのだ。


そう思えば、マスコミに気付かれずに撮影現場まで来るのも何の問題もないであろう。

そんな葬儀屋をグレルは羨ましく思った。


「アタシだけマスコミに追っかけ回されて不公平じゃない……毎日疲れたワ…。」

「なら、君も変装すればいい。」

「え?」

「髪を黒くして一つに束ねてスッピンで出歩けばばれないばずだよ?」


葬儀屋の提案はもっともだった。
でもグレルはどうしてもスッピンが嫌なのだ。
だからマスコミに追い掛け回されても髪も赤いまま……。
黒い髪は自分じゃないようで嫌だった。


そんなグレルの気持ちを悟ったのか、葬儀屋が言葉を発した……のだが。


「じゃあ別れればいい」


信じられない言葉だった。


「うそ…でしょ?」


嘘でも言って欲しくないのに………。


「君が辛いならこうするしかないだろう?」


そんな簡単に別れられるの?

葬儀屋は……。


「もうアタシのことなんて好きじゃないの?」


涙が溢れてきた。

確かにマスコミに毎日引っ掻き回されるのは辛い。
でも葬儀屋が好きだからこそ堪えられる。

なのに……別れる?

どんどん涙が溢れ出てくる。


「グレル……ゴメン、泣かせるつもりはなかったんだ……でも小生だってこれ以上グレルに辛い思いをさせたくなかったから……。」

「バカッ!!アンタと別れる方がよっぽど辛いわヨ!!」

「……じゃあ小生がグレルを守るよ」

「え?」


何かいい案があるのか。

葬儀屋の発言は妙に自信ありげだった。


「何かいい案でもあるの?」

「ちょいとばかり……ねぇ〜」


そう言い、葬儀屋はグレルに耳打ちをした。

「………それ、いいわネ!!」

葬儀屋の提案に賛成したグレルは、久々に笑顔を見せていた。


これならうまくいくかもしれない。


そんな期待を持って…。












「では撮影を始めるのでグレル役のグレルさんと葬儀屋役の葬儀屋さんはスタンバイして下さい。」



そろそろネ……。



グレルは作戦を実行する為、今回はいつも以上に気合いを入れていた。


「では!!よーい……アクション!!」


撮影が始まった。


「アンタとだけは戦いたくなかったワ……。」

「私もだよ……君みたいに可愛いお嬢さんとは戦いたくはない」



あれ?



セリフが…違う。
そもそも作戦にもそんなセリフは一切ないのに。



「え…あ、アタシだって……アンタみたいなイケメンとなんか……」


ダメよ、こんなお互いを褒めるようなアドリブばかりだと作戦どころか余計に関係を怪しまれるばかり……。



グレルは、本来の作戦を思い出した。


本来ならまず、葬儀屋がグレルの悪口を言い、グレルがそれに切れて喧嘩し、さりげなく仲が悪いのだということにしようという作戦だった………のだが……。



「私は君みたいな美しいお嬢さんには手出し出来ないな」


うッ………。

死神モードでしかもその姿でなんて卑怯ヨ…///
作戦はどうしたのヨ?


グレルは戸惑っていた。


内心、演技だからなのか、死神モードに入っている葬儀屋は性格が変わって紳士的になるのだ。

そんな葬儀屋にグレルは弱かった。


カッコ良すぎるのヨ…。


と悪態をつきながら、演技は今だ続いている。



「アンタ………アタシをからかってる?そんなにアタシは軽い女じゃないわヨ?」


グレルは意地でも作戦に戻そうと試してみた。


が………。


「私が嘘やからかいでそんな事を言うと思うか?こんなに愛しい君なのに?」

「ッ…!?///」


馬鹿ッ///
アタシが作戦に戻そうとした意味がないじゃないッ!?


アイツ……一体何を考えているの?


全然葬儀屋の心境がわからないグレルはかなり戸惑っていた。

今のこの状況はかなり危ない。
まるでこれでは自分達が付き合っているとバラしているような物である。


葬儀屋は何がしたいの?


グレルの頭にはそれしかなかった。

だが今だに演技は続いている。


「私は君とは争いたくはない……私と一緒に来ないかい?」


葬儀屋は先程からこの調子……。

ならばと思い、グレルが口走ったのは、言ってはいけない言葉だった……。


「気持ち悪いのヨ!!」

「…!?」

『!?』


周りのカメラマンや監督、スタッフ、マスコミもみんなが驚いた。
さっきまであんなラブトークをしていたと思ったらグレルの気持ち悪いの一言。


葬儀屋はというと……。


「やっぱり……君には小生の気持ちは届かなかったみたいだね」

「え?」


とても……今まで見た事もないくらいに悲しそうな顔をした葬儀屋がいた。


もちろんグレルが言った言葉は本心ではない。

なのに……自分で言った事に、グレルは後悔をしてしまった。


でも……作戦を無視したのは葬儀屋ヨ?


今だに葬儀屋の考えがグレルにはわからなかったのである。



一体アタシにどうしろって言うのヨ……。









「小生も…馬鹿だねぇ」

大体は予想していた事。
作戦を無視すればいずれグレルからの冷たい言葉が出ると思っていた。

だがいざ言われてみればかなり辛い。

「小生がグレルに酷い事を言うだなんて…出来るはずがないじゃないか」


葬儀屋はグレルに『最初小生がグレルに酷い事言うから、そこから喧嘩に持ち掛ければいいんじゃないかな』と言った。

あんな作戦……端からやるつもりなどない。


むしろ自分達の関係などばれてしまえばいいとさえ思っていた。
だからあんな行動を取っていたのだが……やはり裏目に出てしまったのだ。


『気持ち悪い』


ヒッヒッヒ…………ここまでショック…だなんてねぇ。







次の日のマスコミの記事にはやはり昨日の撮影の事が書いてあった。

『昨日の撮影中、葬儀屋がグレルに次々に愛を囁いていく中、グレルはそれを全否定するように「気持ち悪い」の一言……やはり二人は付き合ってはいないのだろうか?』





………………。





全否定……そんな訳がない…。


でもアタシにはどうすることも出来ない。


どうすればいい?



「ばらしちゃえばいいじゃない」

「えッ!?」


そこに後ろから突然声がしたと思ったらマネージャーのマダムレッドだった。


ばらす?何を?関係を!?


そんなグレルの考えはお見通しとでもいうように、マダムは……。


「アンタ……葬儀屋と事務所どっちが大事なの?」


と言った。


アタシは咄嗟に思ったワ……。

もちろん葬儀屋だって。



「あ………。」

「アンタの答えは出たようね」

マダムは綺麗な笑みを残し、そう言った。

「ありがとう、マダム」

グレルはマダムに感謝だけを残し、葬儀屋の元へと急いだ。





「葬儀屋!!いる…?」

グレルは葬儀屋の家を訪ねた。

「おや……誰かと思えばグレルさんじゃないですか」

葬儀屋はやはり怒っていた。
グレルを他人行儀で接するという事は少なからず機嫌は良くない……。
だがそれを予想していたグレルから出た言葉は


「葬儀屋……ゴメンなさい」


謝罪の言葉であった。


「………小生も悪かったよ……大人げなかったんだ」

「いいえッ!?アタシがアンタの気持ちを考えなかったから……その……アタシに悪口なんて言えなかったんでしょ?」

「……………。」

「なのにアタシ……心にもないことを…本当にゴメンなさい!!」

「もういいよ、小生は気にしてないからねぇ」

「……………。」


嘘ヨ……。
口は笑ってそう言ってるけど……目が笑ってない……。


葬儀屋の方も考えていた。


小生だって悪い……いや、むしろグレルは悪くない……あんな作戦をたてたのだって小生だ…。
なのに小生の我が儘で君を困らせて、本当に小生は馬鹿だねぇ〜。


「ねぇ……葬儀屋?」

「なんだい?」


グレルの顔はやけに真剣になっていた。


「アタシ……マスコミとかに噂は本当だって言おうかと思うの!!」

「なんだって?でもそれじゃあ君の事務所が………」

「事務所なんて関係ないワ?アタシが本当に大事なのは、事務所や仕事よりも、葬儀屋なのだから……。」

「グレル………。」


葬儀屋は、嬉しいような嬉しくないような複雑な気持ちでいた。
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