企画モノなど

□アペリティフを待てなくて(2013バレンタイン)
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「…………何?…」

「なにって…義理チョコだろう、どう見ても。あ、ロロノアお前、ギリって言葉が好かないんだったら友チョコって呼んでも構わないぞ」

 ホロホロホロと、それなりに機嫌のよさそうな様子でペローナは笑った。独特のゴシックロリータ系のファッションがふわっと風に揺れる。その女子学生はゾロとは同じコースを選択しているらしく、幾つも講義がかぶるうちになんとなくたびたび会話をするようになった。

「何チョコだって?…よくわかんねェけど。流行りの土産モンか何かか?」

「え゛……おい待てロロノア、お前まさか…あ〜いや、まさかな。……いやいやコイツなら有り得る、怖いもの見たさで一応聞いてみよう。……なァお前、バレンタインデーって知らねェのか?」

「バレン………。
……………
…耳にしたことはある。…気がする」

「うわあ……――あーでもうん、お前ルックスは悪かねェけどあんまりモテなそうだもんな」

「……」

「てゆーか…」

 ペローナは思った。ホントはそのルックスは、客観的に見れば“悪くない”どころじゃないんだろう。ロロノアってのは喋り出すと常にとんちんかんな野郎だが、黙ってるところをちょっと遠くから見てる分には、芸能人か?ってくらい見栄えがする。うん、これまでの人生でバレンタインデーに告られたことくらい何度もあるだろう。だけど…目に浮かぶようだ。きっとその時でさえ今みてェに「何?」とか言っちゃって。意味わかんねェなァと思いながらただバリンボリンとチョコを食い、あとはもうその出来事をすっかり忘れちまう。おおかたそんな19年を生きてきたんだろうな…

「ロロノアお前、カノジョとかいねェのか?」

「カノ、ジョ。……………いねえ」

 その瞬間ゾロの脳裏にはフッと、生意気な顔で笑う例のあの金髪がよぎってしまったのだけど。いや絶対にアレを“彼女”とは呼ばないはずだ。だから回答は「いねえ」で間違ってない、うん。ゾロは一人小さく頷いた。

「…ふうん………お前さ、ちょっと変わった奴だとは思ってたけど、変わってるっつーより…ちょっと気持ち悪ィな」

「Σなんで今てめェにんなコト言われてんだかさっぱりわからねえよっ」

「フンッ」
 ペローナは軽く鼻を鳴らすとやれやれといった顔をしてみせた。

「ま。あれだなロロノア、私のこんなんと違って、もっとサイズも大きくてセンスのいいチョコレートを、今日誰かがお前にくれるかもしれない。それが可愛い子だったらお前ちょっと、親交を深めることを真面目に考えてみたらどうだ。あなたが好きです、って意味なんだぞ」

「………ス、キ…?」

「そうだ。…ってかお前、初めての文化に触れた原始人みたいな顔すんのやめろよι大事な日だぞ(まあ別にそれほどでもねェけど…)。フツウ男子はみんな、好きなコからチョコがもらえるのを楽しみに待ってるもんだ(まあイマドキ「男子はみんな」ってことも無ェだろうけど…)」

「そっ…、そうなのか?!?!」

「え…急に反応いいけど一体今のどこに一番食いついたんだ??」

 何やらゾロは真剣な顔つきになっている。

「ペローナお前っ…それ、……どっ、…どこで、買ったんだよ」

「へ?!……いやあ、私のなんかはそこらのスーパーの…普通のお菓子売り場で…たまたま包み紙のコウモリ柄が可愛かったから…」

「スーパー…そうか」

「はあ?…あのっ、何がしてェのかわからないが…“本命”は絶対違うぞ。手作りする女の子もいるけど、一番好きな人にあげるものを店で買うなら青山や銀座なんかの路面店とかデパートとかだ!」

「…ロメンテン?………」

「…ん?なんだ?お前さっきからマジでわけわかんねェけど…怖いもの見たさでつ、つっ…連れてって、やろうか…?」

「………いやいい。デパート、…デパートでもいいんだな?」

「う、…うん…。いやっ、てゆーかロロノア、お前何か勘違いしてねェか?女子が!お前に!くれるかも、ってゆー話を私はしたんだぞ?普通は男子ってェのは、…ってお前のことだぞ?いいか?チョコもらえるのを内心ソワソワしながらすっごく楽しみにしてるもんなんじゃないんですかねえ〜?…って、私はそう言ったんだ」

「ああ。だから……そうなんだろ」

「…………(な、何が??―――ってまァもうどうでもいっか、めんどくせえや)」

「教えてくれてありがとう。じゃあな」

「…うん…。………????」
 
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