企画モノなど

□リーマン物!〜春の嵐〜
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― 第1話 ―


 世は春だ!…いや、だからってまァおれの日常は大して代わり映えもしないんだけどね。
 おれはサンジ。会社員、24歳。大手の化粧品メーカー勤務なもんで、同窓会やなんかの機会にゃあ必ずと言っていいほど「CMに出てるあの女優と面識があるのか」なんてェことを聞かれるんだが、おれ個人は経理部に所属し主に債権管理の仕事をしているとゆー、いたって地味な身分だ。むしろ会社の事業と直接的に関わることはほとんど皆無と言えるし、あの女優もどの女優も残念ながら面識なんてあろうはずがない。
 ―――ま。社内の女子で女優クラスのかわい子さん達のことなら、おれと面識ないコなんてそれこそ皆無だけどねオホホホホ。…あれ何の話だっけ。ま。一言で言うなら要するにおれァ、日々真面目に勤務してるってこった。


 さてそんなおれが今日も黙々と“未処理ボックス”から取り出してきた書類の束。ちょうど一番上にある注文書、ピラリと持ち上げそこに押された担当者印の名前をふと見れば…

(ロロノア・ゾロ――――――――――)

「ああ…」
 そうだな、事業と直接関わるという点では、同期のコイツなんかは最前線だろう。入社三年目にして営業1課のスーパーエースだ。や、おれに言わせりゃ、あのブアイソによく営業職なんて務まってると思うんだが、これがかなりの好成績だそうな。世の中にゃ、単に無愛想ゆえに無口な奴のことを“誠実”だと思い込んでくれる人間も多いらしい。
 そういや直近で最もインパクトがあったのは、テレビのバラエティとかでよく見かける派手なオカマの社長が経営してるホテルチェーン、それ絡みのドでかい契約を奴がまとめたことだな。あれはかなりの売上げだったけど、おれの見立てじゃ単にあのオバケみてェな社長がプレゼン担当のゾロに惚れたんじゃないかと……あ、ダメだ。これ以上このこと考えてると声出して笑っちまいそうだ。


「サンジさーん!」
「あ…、はい?」
「受付から内線ですー。ロビーに○×銀行さんみえてるそうですよ」
「あー…わかった、今行くって答えといて」


(……そっか、銀行か………)

 今日来るなんて言ってたっけか、覚えがねェな…。細かいようだがおれの時間配分の都合を言えば、あと15分遅く来るかあるいは30分早く来てほしかった。今この時間は微妙に中途半端でちょっと邪魔。
 …………ゾロも、お客さんからそんなふうに思われたりしてんのかな。営業ってやっぱ、おれとは違う種類の苦労がいろいろありそうだよなァ…。ヤツはそんなこと、ちっとも話さないけども。ってゆーかここしばらくは口をきいてねェし、いやそれどころか見かけもしねェな。先月の同期会もあいつ来なかったし…――――って、ロビーへ下りるエレベーターの中でだぞ、なんだっておれァ終始ゾロのことなんか考えてなきゃならねんだろうな。

 いやそれが実は。今だけじゃなくて正直おれはゾロのことをよく考えるんだ。気づくとゾロのことばっか気にしてる。もう何ヶ月間もそうかもしんない。なんでなのかはわからん!わかりようがない。その変な感じが目下の悩みの種だと言ってもいい。

 で、そのまったくもって意味不明な状態を自分なりに分析してみたりもした。ゾロってのはまァ信用は、できるんだけど、おれの中でなんつーか…うーん…なんつーか、どこか“ちょっとダメな奴”。強ェし能力もあるんだけど、なんか危なっかしいんだよな。…そこでだ、おれァ、今までの人生の過程では自覚なかったんだけど、もしかしたらそういう奴に世話焼きたいタイプなのかも…?

 ―――…いや、やっぱ違う。全っ然違うだろ自分。レディのレディによるレディのためのおれが“そんなタイプ”であってたまるか!…だけどさ。それじゃあこれは何?なぜだかゾロのことばっかすっげェ考えるとか………あ、病気?もしかして病気なのかコレ?

「あっサンジさん!どうも、申し訳ありませんお忙しいところ…」
「いえ、いつもお世話になってます。お待たせ致しまして…」

 ロビーに到着してからもなんとなく上の空だったけれどおれは、いつもの銀行員に愛想笑いを浮かべた。

 * * *               
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