♪リクエスト作♪
□学パロ。サンジ片思いからハピエン(後編)
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ゾロを手に入れたいなんて、空を欲しがるようなモンだ。ぼんやりと、そんなふうに考えるようになっていた。
―――おれには叶わない。それはあまりにも遠くて…入口はそこにあるように見えるのに、高すぎて届かない…。
青い青い夏空を見上げると、おれの心はそこにゾロの顔を描いた。
「ゾロ………」
好きだと認めてしまったら、もうその全部が好きだった。ブレないところ、真っ直ぐなところ、何か…「覚悟」みたいなものを持ってるところ。おれの作るメシを旨いと喜ぶところ(ああいやまァ、メシは当たり前かな…)、声や匂いも。そして、何よりもと言っちゃあなんだが、とんでもなく色気のあるあのルックスも…ぜんぶ。
「花火してェな〜…」
ある夜、風呂上がりで例のほぼ全裸状態のゾロが、ソファーにダランと寝そべった姿勢で唐突にそう言った。
「なあコックー、今度花火しようぜ」
…ヤロウ二人で花火なんかして何が面白ェんだよ――普通に客観的にそう言いそうになった。
だっておれなんかとそんなことしたいと思うなんて、やっぱコイツ変わってんのか、単にガキなのか…
…っつーか何その悩殺ポーズ。正直まともに見られなくて、おれはわざとらしいくらい目を逸らしていた。
「…あのなーゾロ、お前がどんだけ自由な田舎育ちなんだか知らねェけども、こーゆー都会ではな、やたらなところで花火なんかしてたら通報されんだよ」
「…へ〜え……」
力無い返答。その声からは表情が読み取れねェなと思って奴のほうをチラリと見ると、またしてもゾロはすっかり寝入っていた。
「――――ったく…」
(かえすがえすも裸で寝んな!襲うぞコラ!!)
まだ夏休みにもならねェってのに、このところ連日の熱帯夜だ。狂おしい気分を誘う、暑い熱い夏……まァだからって全裸もどうなんだと思い、寝息を立てるゾロにタオルケットをかけてやった。
そのままおれがソファーの端に座っても気付く様子はない。なのでおれは静かにその額あたりを撫でてみる。
(…可愛い顔して……)
もう、そうとしか表現しようのねェこの寝顔。
…や、参ったよなあ…こ〜んな愛想の無ェ野郎つかまえて、そんなこと思っちゃう奴だったんだなァおれって…ハアッ
「花火…か」
強く燃えてスッと消えるただ一度の光、ああ、そんな刹那的な行為でも構わないんだ。ゾロ…おれは、おれはお前を抱きたいよ―――
…しかし実際は花火もなにもあったもんじゃなく。その日を境にゾロはおれンちに帰ってこなくなった。最初のうちは花火をしてくれるトモダチでも見つけたかとおれも冗談ぽく考えたりしたが、かれこれもう一週間以上経つ。
あの飲み会の日に成り行きでここに泊めて以来、ゾロが来ねェ日ってやつがこんなに続いたことはねえ。
束縛できる間柄でもないだけに、ゾロにどんな変化があったのか心配でおれはどんどん不安になっていった。
そんなことを気にする日々、校舎内を移動中のある時、おれは久しぶりにゾロの姿を見かけた。
他に誰もいない小さい教室にゾロと…おれの知らない女が二人きりでいたんだ。そうかなりの美人と、窓際に並んで親しげに立ち話をしていた。おれは偶然廊下を通りがかっただけだが、反射的にゾロの視界に入らない位置に身を隠すとそっと中を窺った。
女はゾロの手を握ったり、何やら嬉しそうに笑いながらゾロの胸のあたりをコツンとげんこつで叩いたり…。会話の内容まではほとんど聞こえなかったけど、「ただ授業の話をしてました」なんてェ雰囲気じゃないことは明らかだった。
おれは悟った。あれがゾロのカノジョで、最近おれのところに来なくなったのは彼女との間の何かしらの進展が原因だったのだと…。
そのあとおれがどうその場を離れたのかよく覚えていない。ただ事実は、そのとき向かっていたはずの授業を結局サボってしまったこと、その夜もゾロは来なかったこと…―――
一人の部屋でソファーに寝転がるうちに、ふと泣きたくなってきた。
(おいおいおいおい、泣きそうなおれってどうなんだよ)
(だってあれだろ、仕方ねーじゃん奴のことは、言ってみればおれが、勝手に世話焼いてたようなモンなんだから…)