前半の海


□突然に、君とシャワー
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 キッチンを出て、タバコに火をつけながら甲板に出ると…海面のほうから妙にバシャバシャと大きな音がする。

「大魚――?」

 サンジが覗き込むとそこには揺れる海藻…ではなく。緑色の髪のあの男が、泳いでいるというか暴れているというか…

「あー…もしもし、ゾロ君?てめェ一体何やってんですかね」
「わかんねっ!多分立ったまま寝ちまって、落ちたっ」

―――は?
「オイオイ。どんだけ油断してんだ大剣豪!海で迷子はさすがに探しきれねーぞっ。早く上がってこいよっ」
おれはハシゴを降ろしてやった。

有り得ん…天文学的スケールのアホめ。
おしおきだ。
海王類に食われる前に今日もおれが食ってやる。


「サンキュ…あーびっくりした」
「ビックリしたじゃすまねーよ!全く世話がやける。ほらシャワーいくぞ」
「…あ?別にこのくれえなんでもねェし、シャワーは一人で平気だ」
「ダメだ。今からおれがお前のアホを洗い流してやるからよ」


「………で?なんでお前まで裸んなって一緒に風呂入るんだよ」
「いーじゃん」
 サンジはノリノリで服を脱ぐ。
「シャンプーさせてくれよゾロ。一度やってみたかったんだ♪」
「うっ…。いいっ。くすぐったそうだ、そんなの」
「そんなことねーよ、気持ちいいぜきっと」
おれはゾロの手を引いた。

「たまに思い出すんだ。ゾロお前、アラバスタの宮殿の風呂でさ、チョッパーのこと洗ってやってたろ?実はあのとき…なんかあーいうの、お前にやってやりたいと思いながら見てたんだ」

「………。女湯覗いて鼻血ふいてたくせにか?」
「あぁ…まー、それはそれだ」
「どれだよ」
「フン、まあ座れ」

 シャワーのお湯がゾロの肩あたりに当たるように調節した。
「あったけーだろ?ただそのままジッとしてるだけでシャンプーまでしてもらえるんだ。王様みたいだろ?」
「いやこの使い方、水がもったいなくねェか?」
「だって体冷たいだろ?水も滴るイイ男って感じで画的にもいいぜ」

 本当に…な。ただその飛沫を弾く肌を見ているだけで、早速おかしな気分になっちまうぞ。

 おれはシャンプーを乗せた手の平を奴の髪に絡ませながら、思わずその首筋にキスをした。

「――っ!…んだよっ、落ち着きねェな貴様はっ」
「ヘヘッ…わり、ちゃんと洗ってやるよ」

耳、赤くしちまって。ホンットいじりがいあるったら…


「なあゾロ、誰かに髪洗ってもらうのって気持ちいいだろ?」
「………」

ん?なんで何も言わないんだ?

「………。……コックお前、誰かに洗ってもらったことがあんのか?」

………ああ、そういうことかよ。

「ガキの頃の話だよ。クソジジイにな。」
「………」

だからなんで黙ってしまう?!

「………。……何歳まで、一緒に風呂入ってたんだよ」
「は?」

オイオイ―――
「おう、妬いてんのかい?マリモ君」
「妬くか!」

「プッ…勘弁しろよ、あのジジイだぜ?何かあるわけねーじゃん」
おれはゾロの髪についた泡を丁寧に洗い流しながら笑った。
「だからっ…別にっ…妬いてるとか、そんなことおれは言ってねェ!」
「ふぅーん。ま、なんでもいいけどな」

 ハハッ。後ろ姿でも、お前が今どんな顔してんのかおれにはわかるんだぜ。

「それにしても綺麗な背中だな……ゾロ」

その背中に頬をつけ、体をギュッと抱きしめた。
「うっ」
「…あのなゾロ」
「…なんだよ」
「あのジジイはさ、いつもおれを守ってくれたぜ。本当に、何もかもからな…」

 目を閉じる。毎日死ぬほど蹴り飛ばされてたのにな、心に思い出すジジイは必ずいつも優しいんだ。

「………そうか」
少し間があいてからそう呟いて、ゾロの手がおれの腕を静かに掴んだ。


「コック。おれは神とかには感謝したことないが……ゼフには、ものすげー感謝しなきゃいけないのかもな」
「え…」


なんだ?
どーしよ。
スゲー嬉しい。

「ゾロ…」
おれは向き直って、なんだか改めてドキドキしながら奴にキスをした。
そして荒くなる息に身を任せ、その腰を抱き寄せた…。

「なぁ…もう海とか落ちてんじゃねーぞ、ホント頼むぞお前…」

END

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