前半の海


□酔っ払いの言い掛かり
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「…あ?それでロビンがどうしたって?」
 夜、ジムに一人でいたゾロのところへサンジがやってきて何か訴えているのだが、ゾロには言われてることの意味がよくわからない。
 「だからっ…今日みんなで茶〜してた時だよっ!なんでお前、ロビンちゃんとあんな近くに座る必要があったんだ?って言ってんだ!!」
「………つーかよ、なんだお前、酔っ払ってんのか?」
 酔っ払ってるどころか、へべれけと言ったほうが実態に近い。よく見ると無事ここまで上ってきたのが不思議に思えるくらい、サンジの目は据わっている。

「ゾロッ、ご〜ま〜か〜す〜なっ!!」
「や…ごまかしてねェし、全然覚えてねェし…つーかお前がそういうこと言うかよ?いっつもナミとロビンに対してうるさく騒いで鼻の下のばしてんじゃねーか」
「……あァ?そりゃお前、あれだよ、キャラだろ。おれは船の中で期待された役割を遂行してるだけだっ」

…いや期待された役割は「コック」だろ。

「でもなーゾロ、てめェは違うだろォ〜。てめェがそばに来たら女は惚れるっ!おれァ…ゆるされーんら、それを〜」

 サンジには悪いがゾロは思わず舌打ちをした。
(なんだかなーこいつ。めんどくせェ…)

「あーもうわかったよコック、お前の言うとおりだ。しかしもうその心配はしなくていいから速やかに寝ろっ」
「……ゾロ。…おっぱいちょうだい」

ゾロは、一瞬ひどい寒気に襲われて硬直した。

「…アホな言葉使うなっ!気持ち悪いわ!!」
「いや、だってよ〜ォ」
サンジはゾロの肩に両手を置きながら、頭だけお腹のほうに下がっていく。そうして顔でゾロのシャツをこするようにしながら鼻先だけでめくり出す。そうするうちに、唇がゾロの胸のその部分をとらえてチュッと口づける――

「んっ…何すんだよっ」
「…おれ、お前の乳首なめんの好き」
「くっ…口に出して言わなくていい、そんなことっ」
サンジの濡れた舌先がそこを転がしていく。

「おい…やだ、ヤメロッ」
「やめない…なんかさ、感触がいーんだよ。気持ちイイ、かわいい…お前気の毒だな、自分の口じゃここ、届かなくって…」
「何…バカなこと言ってんだっ!…だいたいっ、そんだけ酔っ払っててよく、…し、しようなんて、気になるな?!」
「え〜…なにが?」
「酔いすぎると、そっ、そういうふうには体がなんねーだろっ、普通は」

ゾロのその言葉を聞いて、にわかにサンジの瞳に怒りの色が浮かぶ。
「はァ?ゾロてめェ…フツウは、ってなんだ?あァ?」
「え…」
「おれ以外のよォ〜、男をよ〜、いっぱい知ってるみてェな口ぶりじゃあねーかよ?あァ!?」
「…っ!アホ!なんでそうなるんだよっ」
ゾロはもう呆れるのを通り越している。
「あのなコック、さっきてめェが言ってたロビンの話もそうだが…なんてゆーか…世の中、誰もお前ほどおれのことなんか気にしてねェ!だからくだらないことでいちいち妙な心配すんのはやめろっ。キリがねェ」

ゾロはサンジの両手首を掴むと、思いっきり力を入れてその酔っ払いの体を自分からはがした。
「ゾロー…?」
「今はもう、おれに触んなっ」
「あ〜…なーんでだよ、この照れ屋っ…」
「違う!…」

 ゾロは、続くセリフを言いよどんだ。
 今こいつに説明しても無駄かもしれないとも思った。

 だが、やはり自分が胸の中で思うことをそのまま伝えることにした。
「コック…おれはっ、そんなふうにわけわかんなくなってるお前にっ、なんとなく触られる、みたいなのは…いやだ」
「あ…?」
「ちゃんとっ、お前の目がおれのこと見てないのに、“なんとなく”…される、みたいなのはっ…やなんだ!」
言いながら恥ずかしくなってきて、サンジの顔が見られなかった。

 そのサンジは…まばたきを忘れてしまったかのような顔をしてポカンと口を開けていたかと思うと、急に踵をかえして部屋を出て行こうとした。

「…コック?」
「あー…」くるりとゾロを振り返って言う。「気合いと根性で確実に酔いを覚ましてくるっ」
「え…」
「いいかァ?てめェとのセックスに集中するためだ!首洗って待っていやがれっ」

 (いや、オイオイ――)

「んなこと…高々と宣言されてもよー…」
騒がしかったサンジのいなくなった部屋で、ゾロは独り言を呟いた。
「つーかアレ…きっと今日はあのまま寝ちまう、よな…?」

軽くため息をついてダンベルを持ち上げる。

しかしそのまま何もしないでもう一度それを床に下ろすと、所在なさそうに頭をかく。

「……。だァーっ、もう!」

その場にゴロンと寝そべった。

「あいつのせいでっ…なんか落ちつかねーなっ!」

 思わずサンジの足音を待ちわびてソワソワしてしまう、素直なゾロなのだった…

END

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