前半の海


□二日目の微熱
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「ゾロッ、…ゾーロッ。そろそろ起きろ」
「ん…」

 キッチンのソファで眠るそいつのことを、おれはさっきからもう何度目だよってくらい、綺麗だなと思う。

 昨夜…正確には今朝と言ってもいいような時間まで行為は続いていたが…おれは初めて、この男を抱いた。

 そんな簡単におれのものになるようなタマじゃない―――普段のこいつを考えるとそう思うところだが。実際なかば強引に腕の中に入れてしまうと、奴は意外なくらいしおらしく、誰にも見せたことのないような顔をして快感と痛みを受け入れた…

 こいつの体が…おれのことを好き、だと反応した――

(うっ…ダメだ。思い出すとおれまたっ…)

「こらゾロ!起きろって言ってるだろ。そろそろ誰か来るかもしんねェぞ」
「んー………いてて…あれ?」

 やっと。自分が裸であることに気づいたゾロが、ハッとしたような顔で体を起こす。

「おはよ、ゾロ」
「えっ…あ、…ああ」

おれの顔を見る。
脳裏にあれやこれやを思い出す。
目を逸らす。
赤らむ。
さらにあれやこれやを思い出す…

ゾロの顔を見ていると、そうした心の動きが手にとるようにわかってしまい、こっちのほうが恥ずかしくなってくる。

「…早くシャワー行けよ。お前そのまま誰かに出くわすと多分…ヤった後だってわかるぞ」
「…っ!変な言い方ヤメロ」
「変なって…普通に事実だろ」
「………こっち見んな」

ゾロはこちらに背を向けてモゾモゾと身支度を始めた。

うーん。
少しばかりマヌケな姿ではあるが…その背中もやっぱ可愛いなァ。

「ゾロ、なんか手伝おうか?」
「要るか!…てめェいつから起きてたんだよ」
「…とっくに。コックなめんなよ」
「一緒に起こせよっ」

はァ?!
「ああ…寝顔ずっと見られてたのが照れ臭いか?」
「う…」
「どの口が言うかねェ…お前、何度か起こすつもりで声かけたけど全く起きなかったぜ」

 おれは…ダメだ。他愛もないことを話してるだけなのに、今すぐにでもまた抱きたくなる。他のことが考えらんねェ。

 24時間前には、今こうなってることなんて想像もしなかったのに…


 ゾロが立ち上がった。そして、何か言いたそうなのに言葉がうまく探せない。そんな顔をしてチラリとおれのほうを見たが、そのまま無言で出て行った。

 おれは小さな溜息をつく。
 おれだって……そうだ。何をどう言えばいいのか、どうすりゃいいのかわからない――

 さっきから朝メシの準備をしてるつもりだが、全く手際の悪いおれはいつも通りにこなすことができないでいる。

 皮膚に鼻先に…あいつの感触と匂いが残ってる。
 今もまだ、ゾロの熱がまるでおれの毛穴にねじ込んでくるみたいな感覚がして、細胞の奥から全身を乱す。

…たまらない。

「サンジ君、おはよう」
ふいにナミさんがやって来た。…ってめちゃめちゃ危機一髪じゃなかったか?このタイミングって!

「ナミさんっ!今、外でマリモの奴に会ったっ?」
「…ゾロ?会わないわよ、なんで?」
「あ……なんで?なんでだろう。知らない。寝言です、あなたが美しすぎて脳がやられました」
「ふーん…?」

 ああ…ナミさんそんなに見ないで。全く何言ってんだか、おれは…。
「…あっ。それよりナミさん、なーに?なんか飲みます?」
「あー。自分で冷蔵庫に入れたのあるからいい。サンジ君……上機嫌ね」

(へっ……?)
「そ、そうですか?わからないけど…朝イチでナミさんに会えたからかな」
「んー…そういう感じじゃなくて、なんていうか………あら?ねえ、なんかこの部屋匂いが…」
「えっっっ??!!!い、いや別にっ…そんなことあるわけないしっ…」
「え?さっきからどうしたのよ。…料理用の油?かなァ…。サンジ君、こぼした?」

あ―――匂いってそういう…
「は、はいっ!ものすごく、ものすごっくこぼしましたおれっ。ごめんなさい」
「いや…別にあたしに謝んなくてもいいけど…」
「すいません、おれ今朝なんかおかしくて…」
「……(まあおかしいのはいつもだけど?)」

 ナミさんが出て行ってから、おれはちょっとソファ周辺を掃除した。

(毛布…洗濯しねェとマズイなこれ)

つーか………
ここで、
ゾロとっ……

(サンジ…――)
絡みつく吐息と一緒に、奴が、おれの名前を…

「ああっ…」
もうホントたまらない。
だいじょぶか?おれ。体がおかしくなりそうだ…

あ、いかん、朝メシの支度……
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