前半の海


□要するに好みなんだ!
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 おれはゾロが好きだ。すごく好きだ。

 ゾロの良いところを挙げてみようと思えば、可愛いだの綺麗だのと細かい単語をいっぱい並べることはできるが、そういう形容詞みてェなモンじゃどうしても説明しきれない想いもあるってことを、おれは多分こいつとのことで初めて知った。

 それはつまり、ゾロは「どうしようもなくおれの好み」なのだ、ってことだ。早い話、おれはあいつが何やっててもグッとくる。世話の焼けるあの感じも…ずばり、可愛いくてたまらねェ。何がどうだからじゃなくて、好きなもんは好きなんだ!ってやつさ。

 その対象が女じゃなくてもよかったってのは我ながら驚きっちゃ驚きだったが、まあ元々おれァ常識なんてヤツとは縁遠い育ちなもんで、「ああ、そこすらどうでもよかったんだなァ」…くらいな感じだな。
 というか正確には、そんなことを頭で考えるより先におれは既にとてつもなくゾロを好きだった。

 おそらく出会って間もない頃から、心ごとごっそり持ってかれてた。さすがにその気持ちに気がつくには少し時間がかかったが…

 自分でもおれは、普通以上に女好きだと思っていたからな。
 だけどそれは…例えば「犬が好き」とか「スイーツが好き」とか言うとき、人はその犬やらスイーツやらに恋愛感情を持っているか?…まず100%ないよな。おれの“女好き”はそんな気持ちに近いんだと今は思う―――



「コック!」
 ふいに、そいつがおれを呼ぶ声がする。

「…………なんだマリモ」

「てめェ何ボーッとしてんだよ?」

 あくび混じりの声で、それは一応疑問形だっつーのに「その答えには別に興味ありません」みてェな態度でゾロが言った。

「お前な…客観的にはお前のほうが、どんだけボーッとしてんだ?って顔だぞ」

「んー…そっか?まァなんでもいんだが、…腹減ったっ」

(これだよ…究極マイペース)
 おれは無意識に、鼻で笑うとも小さなため息ともつかない妙な声をこぼしていた。まァ、そんなこいつもやっぱり可愛いんだけどね。

「…はいはい、お姫様」

「ん?なんだそれ…イヤミか何かのつもりか?」
 ポリポリと腹をかきながらゾロが言う。ガキみてェな仕草だ。

「別に…実感だよ。考えてみると、お前の船での毎日ってかなり快適ライフだよな。いろんな意味で。ま、そのほとんどがおれのおかげだけど〜…みたいな」

「んー…?……まァ、そうかもな。感謝してるよ」

(えっ―――)

 …こいつは、天然にズルいと思う。

 たまにこうやってやたら素直になったりして、油断しきったおれの胸をストレートに攻撃しやがるんだ。

「なんだ?変なツラしてどしたんだコック?」

「別に…」

 お前はホントにホントにクソ可愛いなあと思って見てたんだよ―――なんて、今日は言うのはやめておこう。

 ハマり過ぎのおれが、なんだかやけに照れくさいから。

END

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