前半の海
□今宵なぜだか同じ夢を
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ロロノア・ゾロの夢を見た。…いや奴の夢というよりは、奴とおれの、その―――
夢の中であいつは、おれのことをミホークと名前で呼んだ。
それは何か甘ったるい匂い付きの夢だった。そして初夏のみずみずしい夜明けのように、世界は切ない青色をしていた。
間違いなく夢。ああ、ただのおれの浅ましい夢だ。なのに…どうしてその肌の感触や、奴の潤んだ息遣いまでもがこのおれの五感に残っているのだろう。こんな寝覚めは…………苦し過ぎる。
「…うっ……」
(ああ、なんでこんなにも体が収まりきらなくなっているのだ…)
我ながら呆れるしかないな。どれほど若々しいのだおれよ…
「―――でっ?!」
シャンクスは、自分が出したつもり以上の大声に自分でも少しビックリしながら鷹の目の次の言葉を待った。
「…だから、ロロノアの、夢を見たんだ」
「………」
(それはさっきと同じセリフだろうが)
心でそう思ったが、当の鷹の目に対してはまずどこから突っ込んでやるべきか考えあぐねた。
突然鷹の目がやって来たとあって、さすがの赤髪海賊団もそれなりに一通り大騒ぎだった。
一応形式的に客人扱いで、その目の前には上等な酒などふんだんに並べられているが、シャンクスはさほどうまそうでもなく如何にも面倒げに盃を口に運んだ。
「鷹の目お前なァ…またしてもわざわざ訪ねてきたと思ったら…なんでおれがいちいちお前のその、何やら青臭い話を聞かされなきゃならないんだ?」
幹部の面々は、少し離れたところから二人の様子を窺っていたが、そのシャンクスの言葉にはそれぞれがコクコクと頷いている。
「……赤髪、お前のほかに話す相手がいない」
「はっ?!」
(ゴーー…ン)
「あー…いや、お前のそのちょっとかわいそうな事情になんでおれが巻き込まれなきゃならねェんだよ」
「そんなことより赤髪…ホントたまらなく可愛いんだロロノアの奴」
「おい…今、そんなことよりって言い放ったか?オッサンおれの話聞いてたか?」
「シーツをこうな、キュッと掴んで震えるんだぞ…」
「だからお前っ……いや、てゆーか、シーツって……(なんだそりゃ。どんだけ乙女のイメージだ?)」
「それであいつ、も、も、…『もっとシて』とか言うんだ。なァ赤髪、そんなの信じられるか?」
「信じる必要あんのかそれっ」
「………もはやコントだな、お頭と鷹の目」
遠巻きにヤソップがそう呟いた。
「あのなァ鷹の目…」
やや同情が入ってきたのかシャンクスは、先ほどまでよりだいぶ静かな口調で言葉を続けた。
「これだけは言っとくぜ。お前……お前さァ、次は手ぶらで来るなよ」
アホくさ―――シャンクスは心の中で思う―――おれは、毎度お人よしが過ぎるようで、この招かざる客に「次」があることを認めてしまった…。
「なーコック…」
「んー?」
わざわざキッチンに入ってきてまで、神妙な表情でゾロがおれに話しかける。
作業中だったおれは手を休めずに、とりあえず目だけでチラリとゾロを見た。
こいつがこんな顔をする時ってェのは、だいたいクソアホな理由で一人マジに悩んでたりすんだ。
「…どうした?」
「その……鷹の目が、夢に現れた」
「はァ?!」
これまた予想外の名前がポンと出てきたもんだ。つーか「現れた」て…RPGの敵キャラか何かじゃねんだから。
……あー。
…ははーん。
この野郎、奴の夢を見ちまっておれに申し訳ねェとか思ってんな?そんでもって、おれに隠し事はできねェとかなんとか思って、そんな顔して伝えに来たんだな?
…アホだねえ。どうでもいーのによ夢なんだから。ま、こいつらしくて可愛いっちゃ可愛いが…
「ゾロお前、やましいことあんのか?」
「ねっ…ねェよ!」
――ねェよなあ。わかってるよ、お前どう見たっておれのこと、おれだけのこと大好きだもん。
「…鷹の目には挿れられたのか?」
「ん?!いや、多分そこまではされてねェ」
「触られて気持ちよかったか?」
「…っ!や、そ、それはっ…」
「……よかったんだ。あ〜もしかして、『もっとシて』とか言っちゃった?」
「えっ…!あ…い、いや、えっと…」
…アホか。どこまで正直なんだお前。
「イッたのか?」
「…そんなわけねェ!」
「…ふーん…じゃあまァ、別にいっか」
…なんつってな。そうじゃなくたって気にしねーっつーの。