前半の海


□Holiday
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 買い出しのために寄った島はなかなか活気のあるところで、いろいろと揃っていそうな大きな繁華街があった。

 もともと二日間滞在できる予定だ。みんなはそれぞれ買い物に出るのを楽しみにしていて船全体にワクワクした空気が漂っていたが、そのうえ!朝食の席でナミさんが素晴らし〜いことを提案してくれた。

「今夜から明日のお昼過ぎまで、サンジ君はお休み。たまにはいいでしょ?出航時刻だけは決めておくから集合時間はー…」

「オイッ!ちょっと待てナミィ!」
 すいすいと話すナミさんの美しいお声をソッコー遮ったのはルフィだった。

「明日のお昼過ぎまでって?お昼過ぎって何時だ?つまりあれか?今夜から合わせて三食もおれは食いっぱぐれるとゆー計算か?んん?」

「そうよ…っていうか食いっぱぐれるってあんた。少しくらい自分でなんとかしなさいよ、こんだけ賑やかな街なんだから」

「え…ナミさん、あの、ありがとう。けどおれ別にいいんだよ、そんなに…三食分?も、ヒマもらったってすることなんてどうせ食材の買い物とか仕込みとか…」

「ほう〜らみろナミ!サンジ本人もこう言って…」
 得意げに口をはさんできたルフィだったが、セリフを言い終わらないうちにナミさんから「あんたは黙ってなさい」 と制されていた。

「遠慮することないわよサンジ君!こんなことできる機会あまりないんだから。たまには少しゆっくりして」

「はァ…」

 …て、天使さま?!

 そして船長以外のみんなもなんとなく頷き合ってくれている。

 おれは、その後もしばらく続いていたルフィとナミさんの、弟と姉の喧嘩のようなやり取りをぼんやりとバックに聞きながら、思いがけず手に入れた自由時間について考えてみた。

 …あ、いや考えるまでもなく、おれがゆっくりとやりたいことと言えばそりゃあ…そりゃあもう――

 チラッとゾロを見る。奴はさっきから一歩引いた感じでナミさんの言葉を聞いていたが、今、おれとはすぐに目が合った。するとパッと赤くなり、焦った様子でそれを逸らした。

(オイ。なんでもう照れてんだよ……)

クソ可愛い奴め。

 しかしなんだかんだ、そういうゾロの表情が嬉しくて、おれもすっかりヤニ下がってしまうのだった。



 明日の午後まで料理をしなくてもよくなったので、現在船内にある食材の都合をあれこれ考えながら、今日の分の昼メシとおやつを普段よりたくさん作った。作りながら鼻歌でも出ちゃいそうな気分だった。

 さっき、ちょっと二人きりで会話できるチャンスがあったから、おれは早速ゾロに言った。

「今夜は、ほかに誰もいない部屋で、…陸の、広いベッドで…朝まで一緒に眠りたい」

 よく考えるとそれはあまりにバカ正直なセリフだが、おれにとっては切なる望みだったから、言葉を飾る必要なんかなかった。

 それにそのあたりはゾロも既に同じような気持ちだったろうと思う。
 相変わらずな態度で「ああ」と短く答えただけではあったが、そのあと奴が一瞬見せた、えも言われぬ初々しい上目遣いを、ああなんていうかもう…世界中の人間に見せてやりたい!―――あ、いややっぱ勿体ないからダメだ。

 あれはその…世間知らずの処女が、目の前の男に体を預けることを決意したときのような顔だ。

 おれは誰よりも愛しい恋人に、もはやそんな表情を向けてもらえるような関係ではないはずなのに、どうしてゾロの奴はいつまで経ってもあんなふうにたまらなく可愛いんだろう。汚れないんだろう。…危険なほどそそるんだろう。

 そうやっておれは何度でもゾロへの“一目惚れ”を繰り返し、何度でも新しい気持ちで夢中になるんだ。







 キングサイズベッドの部屋を当然のように希望した。対応した従業員は内心「男二人で?」とギョッとしてる気持ちを不遠慮に顔に表しやがったが余計なお世話だ。
 広くて大きな一つのベッド。ああそれこそは、日頃おれが夢にまで見るシチュエーションだ!…そんなもん、クソささやかな願いってもんだろう?

 少し離れて立っていたゾロは、まあもともと鈍い奴なんだが、おかしな目で見られたことに気付いちゃいない。――それでいい。照れ屋なこいつに余分な情報は注入されないほうがいい。

 なーゾロ、そうだ、お前はただおれに集中していろ…!
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