前半の海
□おれの目がいつも映す色
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今日もゾロが芝生に寝そべっていると、キッチンの中からサンジが出てきてその場でタバコに火をつける気配がした。
すぐにゾロは自分が見つめられていることに気がついて、照れ臭いので目が合わないように意識しながら、そのサンジの姿を視界の隅にキープした。
そうするうちにしばらく経つとサンジの視線が自分から外れ、空を見上げたようだとわかったので、ゾロはそっとその顔を窺ってみる。
――あいつがタバコを燻らせながら、あんなふうに少し鋭い目をして空を見るとき…何を考えているのだろう。バラティエのこと、それとも――
それにしても明るい陽の光の下で、その輝く髪は本当に綺麗だと思う。
ゾロはそのまま気付かれないようにジッと、サンジの口元や手の動きを観察することを続けた。
慣れた手つきでタバコを扱う指先、思わせぶりにも見える様子で小さな円筒をついばむ唇、たまに弄ぶようにその端を噛む、…そう、とてもとても優しく噛む――そんな仕草の全てがどうしようもなくゾロの奥のほうの何かを熱くした。
――あの手と唇はおれのことも…いつもあんなふうにして触れてるんだろうか――
ふっとそんなことを考えてしまった自分にギョッとする。
(うっ……いやいや、何考えてんだおれはっ…)
ゾロは思いっきり頭を振った。
それからもう一度、気を取り直したようにサンジを見上げる。
サラリと風を通して光る綺麗な髪。その色が少しずつ近づいて―――…近づいて?
「よォ!ゾロ」
「あ……」
「起きてたんだなァ、お前」
そう言いながらサンジはすぐ横に並んで寝転がった。
「コック?…なんだよ」
「んー?べつに…お前の見てる景色を見に来た」
「は?……フン、お前にはぜってェおれの見てるモンは見えねェよ」
「あァ?!カチーン。そんなこともねェだろっ……その、おれ達ァ、結構同じとこ見てんなって、おれは日常ン中で実感してるけど?」
サンジは素直な顔つきで少しふてくされた。
「……あー…べつにお前がそんなふうに思うような意味で言ったわけじゃねェ」
ゾロはプイッと顔をそむけた。
(コック…お前の目にはお前は映らないだろ。バーカ)
「おお〜う!サンジィ〜、ここにいたのか!」
その時、にぎやかに叫びながらやって来たのはルフィとチョッパーだった。
「なんだァ?ゾロと二人で昼寝してたのか?お前ら仲いいんだなー」
「んなワケあるか!」
思わず慌てて立ち上がり、同時に怒鳴ってしまう二人。
「ムキになるなよ、まったくお前らガキだな〜シシシッ」
「んだとコラッ!お前に言われたくねえ!」
これもふたたび見事なユニゾンで。
サンジとゾロは互いに顔を見合わせる。それからサンジが少し決まり悪そうに咳ばらいをして、タバコを取り出しながら言った。
「あー…ルフィ、何か用があって来たんじゃねーのか?」
「おっ!そうそう。サンジ、ドーナツパーティーやろう!」
「ん?!」
「今日ドーナツパーティーやろう!」
ルフィとチョッパーで相談しながらここにやって来たのだろう。二人はやたらワクワクした顔で口々にドーナツパーティーという単語を繰り返した。
「パーティーってお前ら…いきなり言われても材料の都合ってモンがよ…。あー…まァ、ドーナツくれェならなんとかなるか」
「やったっ!サンジ大好きだあ〜」
「おれもおれもっ。おれもサンジ大好きだ!…なーゾロ、お前もサンジ大好きだろ?な?な?」
チョッパーが眩しいくらいキラキラした目でゾロの顔を覗き込む。
「は?…いや…おれは……そーゆーアレは…」
「アーッハッハッハー」
突然大声でルフィが笑った。
「ゾロお前なー、ここはノリで言っとけよ!まったくお前は可愛い可愛い。ワッハッハー」
バン!バン!バン!
何度もゾロの肩を叩くルフィ。
(う…なんかおれ、動物と子供のペースに押されてるか?動物と子供のペースに…っ)
「ところでサンジ!おれオレンジの味するドーナツがいい」
「あっ☆おれ、中にクリーム入ってて上にナッツが乗ってるやつ!」
「って注文クソうるせェなお前ら。好き勝手言う前にナミさんとロビンちゃんのご希望しっかり聞いてこい!」
「ヘーイ♪」
二人は踊るようにはしゃぎながら去って行った。たぶん本当に、早速ナミとロビンの元に向かったのだろう。
「っとに騒がしいな〜アイツら」
サンジは笑いながらゾロのほうへ向き直った。
「あー…てめェにゃ特製マリモ型な。リアルに緑色しててちょっと気持ち悪ィやつ作ってやるよ、へへっ」
「…………黄色がいい」
(……あ?)
「あァ?!! /////」
END