前半の海


□328話2頁目あたりでゾロが考えてたこと
1ページ/1ページ



 メリーお前……

 本当にもう……

 走れねェのか…?――



 そんなこと、すぐには信じられねェ…それにウソップの奴がコレ知ったらどう思うか…

 ……確かにメリーは無理を重ねてきた船だ。そりゃあ相当の傷みを蓄積もしてるだろう。だが…

 ……メリーと別れる?いや…実感わかねェ。ルフィは…どう判断するだろうな…


メリー。

……………。

 メリーお前は…お前だけは、ここでのおれとコックの時間を全部知ってるんだな。…やたら特別だった、その全部を…。

 出会った頃には思いもしなかった、あの最初の夜のことも…



 最初の夜―――か。
ハハッ…おれの脳みそがそんな言い回しをするとはね。…以前なら…有り得ね……


(サンジ………)


 あいつが突然乱暴に押し付けてきたあの…キスの感触は、いつまで経っても忘れられない。んなこと、多分一生、口に出すことはねえと思うが…おれは正直、あの時を何度も思い出す。…全然忘れられねェんだ。熱っぽくて、柔らかくて、ものすげー驚いた。全身に…震えが来た。


 反射的に押しのけたおれに向かって、あいつは「嫌か?」って聞いたんだったな。


 オイ――――
 嫌とかなんとかの前によォ、まず一瞬意識飛んだぞ。…おれは…初めてだったんだっつーの!!
 そうだクソ、考えてみたらあいつ…こなれたキスしやがって……


(はあ―――)

 …それだけじゃねえ。そのあとも、もっと、何度も…何度も……


 あいつには、それまでおれが知らなかったようなことを次から次へとされて……あとから思い出すと無茶苦茶だあの野郎。なんって言ったらいいか…、疲れ知らずで…


 メリー……奴は、どんなところでも急襲しやがるんだよな。おれは何回お前の床にいきなり転がされた?…痛ェっつーんだよ。
 そう、あいつはホント強引で……おれァ…メリー、お前のあちこちに思いっきり爪を立てたことも…たぶん何度もあるんだろうな。


 ―――うっ!やめだやめだ、おれっ、なんつー言葉使って回想してんだよ…



 (…ああ)

 コックの奴、本当にあいつはいつだってどうしようもなく強引で…

強引で……



 ――来いよ、ゾロ…こっちに来い…



(…あ………サンジ…

    ――――!!)



 あいつに触れられるとその部分が痺れる………なんて、もんじゃねェ。波打つんだ。肌が波打って、おれの境界なんてなくなっちまうようで、まるでそのまま宙に浮いてしまうような。真っ白な世界へ投げ出されるような…


 あいつの手…その手は、なんていうかおれの芯…すごく奥のほうの何かを直接触るみたいに入り込んでくる。
 そうされるとすぐ、おれの体中の細胞はあいつに向かって全力でせり出そうとする――


 その、ほかの何とも全く違う感覚におれは翻弄されて、溺れて…。でも確かに…確かに深く満たされるみたいな…あの、激しいくせに穏やかでもある不思議な時間……

(はあっ…―――)


 あ、なんか…やべ……止まれ…


 おれの思考、

 止まれっ…





(…………。)

 …最初、おれにとってのコックはただ「なんだか話の早い奴」だったんだ。誰よりも察しがよくて、少ない言葉でも意図を正確に汲み取るような。

 だが…途中から気付いてた。あいつは特におれの言葉に注力して耳を傾けていたし、特におれのことを他の誰よりも……見ていた。


 それが何なのかなんて、その時には考えてもみなかったが…



 …思い出してみると、おれは自分が自分でなくなるようで戸惑うこともあった。


 それから、初めて強く感じた「なくしたくない」という思い。…最初の頃それを弱さと勘違いしておれは、なんだか少しだが不安になっちまったことも……

(だけど…―――)



 …そういうおれの一つ一つを、メリー、きっとお前はいつもそっと笑って受け入れていたんだな…


 何を思っていた?メリー、お前の目に映るおれ達は…いつも一体どんな顔をしていたんだ。


 …ああ、いや、何がどうでもおれは…お前と走った日々の全部が、本当に、……本当に好きだったぜ。



(はあっ…

ホントに…

本当なのか?メリー…………)



 なあコック、おれァきっとてめェに面と向かってこんなこと言えやしねェが…

「宝物」だよな?ここでおれとお前の分け合った何もかもが―――





 
 

「おれメリー号が好きだぞ!!」

「―――全員そうさ…

 だが現状打つ手はねェそうだ」

END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ